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「え?」
「え?」
今のはもちろん冗談で言ったのだろうが、その後に殿下が知っていると発言したのは何故なのか。
「私とギルベルト様は恋人ではないですよね」
「………」
「ああ……そうだね、レティ」
ニコリと笑いながらギルベルト様は笑った。
再びピリリとした空気を感じたが恐らく気のせいだろう。
笑顔のギルベルト様にニコリと笑い返すと、私は口を開いた。
「それはそうと、ギルベルト様は何しに来たのですか」
「レティがクリスチャード殿下に攫われたと聞いたから来たんだ」
「それには語弊がある、僕はちゃんと同意の元連れてきた」
「あれは命令にちか……」
そこまで言って口を閉じた。
世の中には例え事実であっても言ってはいけないこともある。
「命令されたの?」
「いいえ、多分命令じゃないです」
「多分?」
「いえ、違います」
そこまで断言するとギルベルト様は安堵したようにソファの背に寄り掛かった。殿下の方は運動もしていないのに息を切らしていた。もしかしたらあの場所だけ空気の圧が違ったのかもしれない。
「それで?」
「ああ、レティシア嬢と話し、しっかりと働いていると確かめさせてもらった」
「私はずっとそういっておりましたがね」
「百聞一見に如かずだろう。そもそも運命のパートナーにも関わらず、周りの目も気にしない程の相思相愛になっていない方がおかしいんだ」
私は殿下に名前で呼ばれた事にとても驚いていた。
数時前に平民と呼ばれた記憶が懐かしい。
思い返すとかなり酷い扱いを受けていたなぁとつい宙を仰いだ。
「それで、新たに出てきた運命のパートナー達に気をつけるよう忠告をしていただけだ」
「なるほど、殿下にしてはお優しいことで」
「殿下にしてはとはなんだ…」
ちらりとギルベルト様を伺うと、とても楽しそうにしている事がわかる。やはりこのお二人はかなり仲が良いみたいだ。
殿下も高い魔力を持つと聞いているし、ギルベルト様と共に魔族をばしばし倒しているらしいので、信頼もあるのだろう。
少し羨ましい。
「そうだ、レティ。伝えなければならない事を思い出したよ」
「なんでしょうか」
「陛下に呼び出された。明日にでも謁見しよう」
「はぁ、いってらっしゃいませ……」
「……」
ギルベルト様と殿下が私の顔をバッと音がする勢いで凝視してきた。私が良く分からないと首を傾げるも、ギルベルト様はため息をつくし、殿下は再び眉を潜めた状態になっている。
しかし、何故ギルベルト様は陛下に謁見しに行く事を私に伝えたのだろうか。もしかして強い魔獣でも現れたとでも言うのか。
「レティ、一緒に行くんだよ」
「え?そんな、強い魔獣なんか倒しに行けないですよ!」
「魔獣じゃなく、陛下に謁見にだ。その後魔獣を倒すように言われる可能性もあるけどね」
ハタと我に帰ると、確かに魔獣を倒しに行くなどとは言っていない。
なんだ、陛下か。と思ったのも束の間、もしかして陛下って、あの国で1番偉い方ではなかっただろうか。と少し頭を馬鹿にしながら必死に考えるフリをした。
しかし、余程の馬鹿にならない限りどうしても理解してしまう内容である。
「む、無理です!」
「いや、呼ばれているから我々に拒否権はないよ」
「……何も礼儀とか、やった事ないですし」
「では今練習すればいいだろう」
そう言って殿下はパンッと手を鳴らした。
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