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6月ですね。、
それにしても、と殿下が口を開いた。
「あの《黄金のスター》を出した平民のパートナーには気をつけた方がいいぞ。あれは裏に誰かいる」
「裏、ですか」
「ああ……面倒だと顔に書いてあるな」
「よくお分かりですね」
「お前はもう少し僕が殿下だと知った方がいいぞ」
「でも殿下も、この短時間で私に気を許しているじゃありませんか」
私が片手をひらひらと動かすと、殿下は再び眉を潜めた。
そしてため息を吐きながら腕を組む。
多分、私は貴族社会の人間ではないからある程度の作法の免除をされているのだろう。だからこそ、彼もそこまで正式な作法を気にしなくて良いと判断して対応してくれている。
性格が悪いだろうと思っていた事を少々反省しなければなるまい。この方はギルベルト様と私の関係に嫉妬さえしなければ、良く出来た方だと思われるから。
「殿下ってギルベルト様のこと大好きですよね」
「お前、一回処罰されたいようだな」
その言葉を殿下が私に告げたタイミングで、部屋の扉が開いた。
そこには、息を切らしたギルベルト様が立っている。
「ギル!」
「クリス、レティに何をするって?」
「…………」
慌てた様子で入ってきたにも関わらず、とても美しく笑う姿はまるで魔王の微笑みかと思うほど恐怖を感じた。
いつも綺麗な顔だなとは思っていたが、その顔が微笑み怒りを湛えるとこれ程までに強烈だとは。
そう言えば隣町に向かう馬車の時もこんな風に怒っていたのだなと思い返すと、それは自分には向けられていないのに急に背筋が冷えていく。
「ち、違う!これはこいつが変な事を!!」
「こいつ……?」
「お、おい、お前!!黙ってないで助けろ!」
「え?これをですか?」
「貴様……!」
「クリスチャード殿下、どうやら言葉遣いが悪くいらっしゃる。改めて教育をさせて頂きましょう」
ギルベルト様は拳を掌で包み込んでぎゅっぎゅっと揉んでいる。
私はあの重圧を一身に受ける殿下がかわいそうに思い、多少助けでも出しておこうと殿下の側に寄った。
「ほら、ギルベルト様、罰なんて無いですから大丈夫ですよ。私こんなに殿下と仲良くなりましたから」
そう言って殿下の少し離れた隣に座り、当たらない程度に殿下の方へと顔を傾けた。
すると、ギルベルト様から醸し出させる空気がより重くなってしまった事に気がつく。どうやら仲良しアピールは失敗に終わったようだ。
「殿下、失敗しました」
「お前……それは正気の発言か……!」
慌ててより距離を取る殿下にギルベルト様が近づき、ガシッと肩を掴んだ。
ひっという殿下の声が聞こえたが聞こえないフリをする。
「へぇ……いつそんなに仲良くなったんでしょうか」
「ギ、ギルが思ってるような関係じゃないから!」
「は?俺が思ってる関係ってなんだよクリス。そんなの当たり前だろうが」
ギルベルト様は怒ると一人称が変わるんだったなと私の記憶メモが教えてくれている。
入ってきた瞬間から怒っていた気がしたが、何故そんなにも怒る事があったのだろうか。
ふむ。と考え込んでいると隣から必死の目線が届いている事に気がついた。
目が、どうにかしろと訴えてきている。
仕方ない、ここで少し恩でも売っておけば後々何かに役立つかもしれない。
先ほど失敗した事をもう忘れたのかと言えばそんな事は無かったが、意識を少し逸らす位なら出来るだろう。
「ギルベルト様、許してあげてください。ただ殿下はギルベルト様の事が大好きなだけなんです」
私がそう告げると、ギルベルト様は数秒停止した後、殿下からそっと離れ、私をソファから持ち上げると、殿下とは反対側のソファへ一緒に腰を下ろした。
「クリス……悪いが、私にはレティという……」
「知っているわぁ!!」
その声は廊下まで聞こえてきたという。
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