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「……調合をするので出て行ってもらえませんか」
「へぇ!それはすごいな、是非見てから帰ろう」
最早調合を理由に帰そうとすると彼はそんな事を言ってくる。完全に噛み合わない会話と、そう返されるだろうなと把握していた私では、確実に私が折れざる終えなかった。
一体『出て行って』という言葉からどうして、『是非見てから』となるのかを心底確かめたいくらいだ。先程の嫌な予感が的中して再びため息が漏れた。
結果として彼は椅子から岩のように動かなくなってしまった。
「困ります」
「なんなら、見てあげるよ?」
「調合もできるんですか?」
「調合はやったことない」
「…………は?」
最早この男に気を使う事をやめよう。
仕方ないので調合を開始しようと席を立ち、扉を閉めに向かった。
「閉めていいの?」
「調合する為ですよ」
普通の調合では扉を閉める必要はない。
だが、私は調合の際『おまじない』をかけながら行うため、部屋をなるべく密室にする必要があるのだ。
調合台の前に立つと、私は軽く歌を歌い始めた。
〜♪
これは、古来使われていたというおまじないを図書館の奥の奥の奥から見つけ出し、なんとなくかけながら作成したら少しだけ効力が上がった為にずっと行なっている。
手は慣れている為そこまで考えなくても動く。
回復薬は私が森で揃えた薬草を選別し煮詰め、その液体と自分の魔力を小麦粉に練り込み適当に砂糖も加えて小さく丸めた物を軽く火で炙ると完成だ。
私の薬は学校の中でしか売っていない。
まだ卒業していないので魔法薬ギルドに所属できない為、通常の販売ができないからだ。
だから売る時も、効果は悪く出る場合もありますという形で売っている。だが案外人気は高く、割といつも売り切れる状態だ。
最後まで作り終えると、私は後片付けを始めた。
調合中彼は全く口を開くことはなかった。
「すごいね」
「何がですか」
「その歌も、調合の手捌きも」
「それは……ありがとうございます」
普通に褒められると素直に嬉しい気持ちになる。
いかんせん調合の過程を褒められたことはないから、初めてのことに少し恥ずかしくて俯く。
「でも、普通の調合とは違うみたいだ」
「……え?」
「魔法薬ギルドで見たことがあったけど、色々な草を白い鉢で混ぜ合わせて乾燥させたりしていたよ」
「じゃあ私の薬は魔法薬ギルドでは認められていない物……」
「その作り方もあるのかもしれないが、一般的には乾燥させてその粉が薬な事が多いからな」
「い、一体私は今まで何を作っていたのですか……」
「でも効果はあるんでしょう?1つ私にくれないかい?」
「一粒20ベルです」
「お金取るんだ」
彼は笑いながら懐から金貨を一枚取り出して私の前に差し出した。
それは1ベル10000枚分の価値がある。
「な、金貨…」
「これで買えるだけ買おうかな?」
「そ、そんなにありませんよ!」
「ふふ……では、作り終えるまでここに通わせてもらおう」
私は唖然とする、毎日放課後に作れて二回だ。
一回に作れる量はおおよそ20個ほど。500個とすると彼がここの学園を去るまで毎日来なければ間に合わない。
「無理ですよ、他の方からも頼まれているのに」
「別に、この学園が終わってからも私が用意した調合室で作ってくれて構わないよ」
「それも、なんか、困ります。この学園を出てからも親しいなんてバレたら……」
「私は親しくするつもりだから、レティシアは逃げても無駄だと思うけどね」
要は、私が今断ってもどちらにしろ聞いてくれないという事なのだろう。
解せぬ。非常に解せぬ。
解せぬが、想像は容易にできた。
彼は、恐らくパートナーだと予想する私を逃すつもりが無いのだろう。
「はぁ……分かりました、作ります」
「ありがとう!ではこれは渡しておこう」
そう言って金貨を調合台の上に置いた。
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