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そこは、以前アスティア様に連れてこられた部屋に似ていた。
シャンデリアが灯りを灯し、見るからに高い壺が置かれ、座ると沈むソファに、足が埋まる絨毯。
こんな高級そうな場所にいるのに、されている事は毎回尋問というのは、これはどうなんだろうか。
「お前、あの魔法薬のレシピをどこで手に入れた」
「あれは私が作りました」
「嘘つけ、あのように精巧な薬を平民が作れるわけがない」
「はぁ、そうですか」
私が黙るとクリスチャード殿下が私の事を睨む。恐らく説明をしないからだろうが、ここまで決めつけで話してくる相手に気を使う義理はない。
それにあのレシピは私が作った物であり、どのように作るかは私とギルベルト様しか知らない状態だ。
もし、他の人が作成していたら、ギルベルト様が教えたか、同じ考えを持った人物がいるかのどちらかとなるが、後者は考えにくい。
ギルベルト様からはレシピはどこにも出してはいけないと言われているので、一切出していない。
ギルドで作成した時も、見ただけでは精密な量などは知り得なかっただろう。
だから、もし他にもこの方法で作成する人物が出てから、是非疑うように『このレシピは誰が作ったのか』と聞くべきだ。
「生意気な、嘘をついてもすぐバレるのだぞ」
「嘘は付いておりませんので」
私が側から見れば反抗的な回答を取ると、殿下は腕を組んでため息をつく。ため息をつきたいのは私だ、と思うがその言葉は流石に堪え切った。
仕方ない方だなと思っていると、とんでもない言葉を投げかけてきた。
「王命だ、そのレシピを教えろ」
「おうめい……」
国王でもない一端の殿下が、何を王命などと言っているのか。という言葉を引っ込め、もしかしたら陛下の命でこのレシピを請求している可能性があると考え直した。
しかし、それは困る。
何故なら万が一私が居場所を追い出された時にお金を稼ぐ手段として残している一部。
更に、これほど完成度が高い薬はかなりの高い値段でギルドに売れるし継続でお金が入る。
確実に手放したくはないレシピなのだ。
「理由をお聞きしても良いでしょうか」
「お前に話す義理はない」
驚くほど当たり前に返ってくる返答に私は若干だった苛立ちをより募らせる。
今後の生活がかかっているレシピなんだから理由くらい聞かせろと思ったって良いはずだ。
また黙る私に、殿下は再度ため息をついた。
「暇じゃないんだ、早くしろ」
「お言葉ですが殿下。このレシピは私の今後の生活もかかっているもの。それを容易には教える事は出来ません。そして、王命、と言いましたが、何か陛下からお言葉があったのでしょうか。それならば私はその言葉を聞く義務がございます」
私が早口で捲し立てたからなのだろう、以前寝ぼける頭で見たような弱々しい殿下の姿が一瞬チラついた。
威厳の良い姿は、もしかしたら無理やり作っているのかもしれない。殿下が追い出された所をみるに、ギルベルト様には弱かったはずである。
「いいから早く教えろよ」
「良いのですか?これが殿下からのレシピだと広まって」
「何故だ」
「ギルベルト様は、絶対に殿下を疑い、そして口を聞いてくれなくなるかもしれませんよ?」
そう、ギルベルト様の名前を出した途端、殿下はしょぼんと落ち込み「な、なんでそんな事言うんだ!」と弱々しく叫んだ。
作戦は無事成功したようだ。
ギルベルト様に嫌われてしまうだぞ、としっかり伝えてやらねばなるまい。
「だってあのレシピ、私とギルベルト様しか知らないんです。他の人が知ってたらおかしいではありませんか。ギルベルト様から、誰にも教えてはいけないとキツく言われているので…もし殿下に王命だと言われ事を伝えたら……」
そこで言葉をきってチラリと殿下を伺うと、泣きそうな表情となっていた。
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