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「本物の運命のパートナーを見つけましたの。ですから早くあの平民とは縁を切ってくださいませ」
帰宅すると待ち構えていたアスティアに捕まり、学園の客間に通されていた。
レティシアは要らないと返されて、ここにいるのはギルベルト1人のみだ。
「どういう意味で言っている?」
「真実を述べただけですわ。運命のパートナーは世界でただ1組だけ。だからこそ本物が現れたのであればギルベルト様は運命のパートナーではな……」
「どこで本物と判断した?」
ギルベルトの強い口調にアスティアはビクリと体を驚かせた。
本物の運命のパートナーなどあり得ない。そう確信があるために、ここまでしてレティシアと自分を遠ざけようとするアスティアに若干の怒りを覚えてしまうとギルベルトは思っていた。
この意味のわからない感情の変化も分からない人間が、運命のパートナーだと名乗っている事に対しても腹立たしい。
もし本当に運命のパートナーなのであれば、寧ろ変わってもらいたいくらいである。
「『黄金のスター』の魔法陣を出すパートナーが現れましたの」
「……なるほど、確かに運命のパートナーの条件には当てはまるな」
三角形を2つ組み合わせた様な星、六芒星の周りに三重の円が描かれている魔法陣は、運命のパートナーのみが魔力を使用する際に出現すると言われている。
だが、運命のパートナーであっても頻繁にそれが出る訳でもなく、限られたタイミングでしか出ないと聞いている。
それを今まで何も音沙汰が無かったパートナーがいきなり出現させるものだろうか。
ふと、レティシアを連れて母親の元へ戻った日の事を思い出してしまった。
あの時、確かに母アナリアは、自分よりも強い人物が出てくるような話をしていた気がするのだ。
もしかしたら何かを知っている可能性が高い。
「……ではそれについて、一旦調べておこう」
この答えに、アスティアはとても不満そうな顔でため息をついた。いかにも自分が待っているとでも言いたげに、婚約者の態度で紅茶を口に運んでいる。
「何故そこまでしてあの平民にこだわるのですか、あんなに魔力量なども少ない上にマナーもなっていないのに」
アスティアが問題視する部分については、一生相容れないのだろうなとギルベルトは感じていた。
恐らくこのまま婚約者であっても、将来的に冷め切った家庭となるのだろう。
それならばいっその事こと、結婚しない選択をとる方が健全ではないか、などと口に出して言ってしまいたいと思った。
パートナー解消の話は時間の無駄に過ぎない。
ギルベルトは話題を晒すため、ずっと考えていた質問を送る事にした。
「では、質問を変えよう。貴方に誘拐を仄かした人物は誰だ」
真犯人を見つけ出す事に勢力を注いだ方がより好ましい時間となる。
何故なら、またレティシアが同じように連れ出されては、流石に何かしらの対策を取られてしまうかもしれない為だ。
この目の前の令嬢1人の知能と体力で、この学園内からレティシアを誘拐して連れ出すなど確実に不可能だった、だからこそ、早めに真犯人を見つけたいとギルベルトは思っている。
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