60
ギルドに到着すると、初めて見るエルフがフローナの部屋まで案内をしてくれた。
ベッドへ寝かせて立ち去ろうとすると、服が彼女によって掴まれていることに気がつく。
「待て」
「起こしてしまったか」
「お前に話がある」
まるで自分の言葉は通じていないかと思うほど、自分の質問に返答は無かった。近くにある丸椅子に腰かけると、再度彼女の口が開いた。
「お前は、聖女様の事が好きなのか」
その問いかけに驚いた。
顔は真剣そのもので、この問いの答えに間違えば殺されてしまうかと思うほど鋭い視線を向けられている。
一体その質問の中にはどのような内容が含まれているというのか、考えるほど分からないその答えにギルベルトは自分の素直な気持ちを伝えることに決めた。
「私は、レティシアの事が好きだ」
その言葉にフローナは目を大きく開けて固まる、そして急にニヤリとした顔に変わるとなるほどと小さく呟いた。
「そうか、お前は、あの方を聖女様ではないと言いたいのか」
「ああ…私が好きなのは聖女という存在ではない」
「ふむ、良かろう。気に入った。今回のパートナーには手助けをしてやろう」
そう言うとフローナはパチリと指を鳴らした。
目の前に浮かんだのは、ギルドマスターであるレントリュースに貰った本だ。
唖然とした表情でそれを見つめると、本は1人でにパラパラとめくられ、文字がふわりと浮かび上がった。
「この本は読んだか?」
「いや、先程もらったばかりだから」
「そうか、なら良かった。この本は正しく読まなければただの呪いの紙切れに過ぎない。だからこそ正しい人物に渡さねばな」
しばらく、文字は出たり入ったりを繰り返していたが、動作が終わったのか静かにその本は自らを閉じ、ギルベルトの前に止まった。
「受け取ってやれ」
「あ、ああ」
本を手に取るとキラキラと光り輝き、何故か先程よりも肌に馴染む。
「それで、その本は呪いの本では無くなった。良かったな。そのままであればより《共鳴》が進み、自らの意思は消えていっただろう」
「………」
「そんな顔をするな。良かったではないか。その本が味方であれば勝てる見込みが増えるぞ」
「貴方は…一体何を知っているんだ」
フローナはニヤニヤとした顔をより歪ませながらギルベルトに伝える言葉を選択しているようだった。
新しいおもちゃを与えられた子供のような目の輝きを隠すこともせずにギルベルトを見つめている。
「私は何も知らない、ただ判断をしただけだ」
「どういう……」
そう口にして、そう言えばこの本を貰った時にも同じような事を言われたという記憶が蘇った。
まるで何かの筋書き通りに点と点が結びついたような感覚に、心の中がざわついている。
ここまでに間違えた選択をしていたのなら、もう後戻りは出来ないのだろうか。
「秘密を話してやろう」
「……秘密?」
「私はフローナだが、ただのエルフではないんだ」
急に自分の事を語り始めたフローナに驚いて本を落としそうになった。
いきなり初対面も良いところの男に秘密など教えていいのか。
慌てて本を受け止めると彼女の方を向く。
何故か諦めたような顔をした彼女は、ギルベルトからは視線を晒してこう呟いた。
「私はね、魔族とエルフのハーフなんだ」
お読みいただきありがとうございます!




