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ギルベルト様視点になります。
また、隣町まで時が遡ります。
レティシアが連れ去られ隣町へ到着後、ギルベルトがギルドで手続きをしている時だった。
こそこそと話すエルフ達の声が聞こえてきた。
「あれは本物の聖女様ではないか…」
「いやしかし、彼女は既に…」
「だがあそこまで似ているのは流石に……」
ギルベルトがちらりとそちらを伺うと、そのエルフ達の視線はレティシアが入っていった調合室を凝視していた。
奇跡を起こした神が舞い降りたかのような敬うような視線に僅かな恐怖を感じる。
嫌な予感がする。
そう思い、急ぎ調合室を訪れると、レティシアと1人のエルフが対峙しているのが目に映ったのだった。
結局その後、そのエルフが突然気を失うまでは頭の整理が上手くいかずに彼女の話をただ聞くのみに徹した。
彼女の性格に難があったからというのも理由の1つではあったが、彼女からの視線の中に、不安や不満、そして恐れなど色々な感情が見えたから、というのが一番の理由だった。
かなり高圧的な態度の中に僅かに見える疑いの目。
一体何を疑っているのか。
何を気にしているというのか。
会話が終わったところでその疑問は解決する事はなく、自分が何者なのかに対してより深い謎が増えただけとなった。
宿を取りエルフをベッドへ寝かせたのは既に夜でありそのまま寝たものの、朝になっても一向に起きる気配もない。
どう考えてもおかしいその状態に、より、キミの悪さが際立った。
彼女は、何を言おうとして気を失ったのだろう。
「……ギルドに聞いてみるか」
「何だったんでしょう」
「変な人ではあったけど、嘘をついているようには見えなかったから、レティは聖女様なんじゃないかな」
「………からかってますね?ギルベルト様」
レティシアはかなり面倒くさそうな顔をしたままずっと何かを考えている様に見えた。
恐らく、彼女も思っていることだろう。
この、自分達にかかる呪いが、聖女と深い関わりがあるのだろうと。
今までのパートナー達が解明できなかった問題が今後もたくさん出てきてくる気がしてならない。
だから今くらいは冗談という形で終わらせてもよいだろう。そう思って出た、軽い発言のはずであった。
「ギルって呼んでいいよ」
「怒りますよ」
「…………」
笑顔が引き立っていないか心配になる。
この会話をした時に感じた長い年月を経てのみ得るであろう久方ぶりの懐かしさが、心の中に大きな混乱を呼んでいた。
こんな会話、過去にした事があっただろうか。
きっと、もう一押しでもしたら容易に許してしまうだろう彼女の甘さ故に自ら押しきれず、二度と呼んで貰う事はなかったなど、何故自分は今、絶望を感じているのだろう。
目の前に彼女は存在しているのだから、まだいくらでもチャンスなどあるだろうに。
そう思って本当に押し切ってみようと声をかけようとしたものの、声が喉に詰まってしまったのか、呼んでもらうことは出来ずに終わってしまった。
このよく分からない感情を消したいと思ったからかギルベルトは急ぎ、ギルドへと足を運ぶことにしていた。
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