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題名に「!」を入れました!
クリスチャード殿下が初めて口に言葉を発した時すぐに分かった事がある。きっとこの人性格悪いという事だ。
そうでなければ何故ここで私に質問を振るのか。
この方も、私がこの場所にいる事をよく思っていない可能性があるなと思いつつも私はギルベルト様を見た。
「ギルベルト様がそれをご希望であれば」
私がこの言葉を覚えたのは、優秀な侍女であるララから教養を学ぶ事となった初日である。
「貴方をここに連れてきたのはギルベルト様でございます。ですから、ピンチの時にはこの言葉が良いでしょう」と、教えてくれた。
更に言えば、「これでギルベルト様が失敗なさった時はギルベルト・ファン・ザヘメンドの終了が決定致します故ご安心を」とも言われている。
どうして終了なんだろうと思ったが、ララがアンサタの花を使用した劇薬の名前をボソッと口にしていたので、体が震えた事をつい思い出した。
「ギルベルトには逆らえないという事かな?」
「いいえ、ギルベルト様を信頼してございます」
「なるほど、それはいい事だ」
ニコリと笑う殿下に私もニコリと口角を上げた。
「という事で、レティシア嬢も診断書を希望しているらしい」
「……………」
あえてその言葉を使うとは、やはりクリスチャード殿下は性格が悪いに違いない。
私は引きつる口元を必死に堪えた。
「平民のくせに生意気な」
辺境伯様の呟きが聞こえてきた。
そんな大きな声で呟いたら殿下にも聞こえてしまうのではないだろうか。
それとも、聞こえても問題ないと思っているのか。
そう思っていると殿下は私を見つめたまま、こう言葉を続けてきた。
「しかし、残念だ。ザヘメンド辺境伯は許可したくないらしい。という事でレティシア嬢、私の提案を聞いてくれないかな」
「……は?」
「そうすれば、貴方の願いを叶えてあげよう」
先ほどよりも余程輝かしい笑顔でそんな事を言われても、この私が断れるとでも思っているだろうか。
もう一度言おう、やはりクリスチャード殿下は性格が悪い!
______
「レティシア……」
「なんですかギルベルト卿」
「ああ……怒るのは、分かる」
私は今調合室で魔力向上の魔法薬を作っている。
しかも、魔力を限定して向上させる『特化型魔力向上』の薬をだ。
その数500個。明後日までに用意しろとのお達しである。
「ギルベルト様がちゃんと考えて作製しろって言ったんじゃないですか!なんで殿下が知ってるんですか!?」
「……すまない。あの日少し口が……」
「口?」
あの魔法薬を使用した次の日、私に調合室を案内した後に生徒会の仕事をしたらしい。その最中に殿下に色々と聞かれたという。
「色々ってなんですか」
「……」
「ギルベルト様?」
「言わないとだめか?」
思わず顔を向けるほど弱々しい声に、ついギルベルト様を見る。耳を赤く染めて片手で顔を隠してまるで視線が合わないその姿は、まるで市場で出回っている赤面ギルベルト様の絵のようだ。絵は描いた人の妄想らしいが、実物で見るとこちらまで赤面しそうになった。
「何顔赤くなってるんですか……」
「不可抗力だ」
これ以上の追及は私の心臓が保たなそうだと諦めて、私は改めて魔法薬の作製に向き合うことにした。
ここ最近まともに授業を受けられていなくて勉強不足を感じていたのに、まさか殿下の許可を得てさらに期間が延びるとは思わなかった。
せっかくより良い内容を知る事ができるチャンスだが、流石に断ることはできなかった。
逆らえない立場というのもあったが、あの方に逆らったら何されるか分からないという心情の方が勝る。
「ギルベルト様、ちょっと手伝ってください」
だからこの任務を遂行させる為にギルベルト様の手を借りることにしたのだった。
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