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貴族様はあの後、色々な学年のクラスに顔を出し、庭を見学され、学食を楽しまれ、授業に先生として出ているようだ。
普通に楽しんでいて少し意外である。
魔力が少なくここの学園に通っている貴族の方々は、こぞって話しかけに行っているらしい。
確かにここで目をかけてもらえれば今よりは遥かに良い生活を送れる事だろう。
さて私は、彼がこの学園を去るまでの間、こそこそと隠れながら生活する事にしていた。
寮から出て教室に着くのは時間ぎりぎり。休憩時間はトイレに向かい、授業が終わればすぐに薬学室に立て篭もった。
お陰で以前よりも薬の性能は格段に上がり、性能の高い薬も作れそうである。
そんなある日。
カラカラと薬学室の扉を開けると「きゃっ!」という声が聞こえてきた。
「…………ん?」
顔を上げるとそこには少し服の乱れた女生徒とギルベルト様の姿。女生徒は慌ててシャツの前ボタンを閉めて前髪を直している。
「ミーシャ、今日の事は内緒だよ」
「……はい、一生の大切な思い出にいたしますわ」
彼は彼女に優しく声をかけると、前髪を直してあげるかのように撫でつけ、そこにキスを落とす。そして、私にぶつかりながら女生徒が走り去ると教室内には彼だけが残った。
「…………」
実は先ほど既に薬学室に入り、私の荷物は中に置いてある。まさかお手洗いに行っている間にこんな事になるとは思うはずもなく、私は瞬時に逃げるという選択を取ることを忘れてしまった。
「やぁ、レティシア」
「こ、こんにちは……」
まず、ここで何をしていたのかを問いただしたいところだ。しかしすでに私の荷物が部屋にあることを、彼は気がついていたはず。
これは確実に罠だ。
ここはコの字の形をした学園の1番端にある教室で、そこからは寮へ繋ぐ廊下しかない。だから彼は確実に私を狙ってここに来た。そして、あの可愛いと有名な女の子(名前は忘れた)と何か理由があってあんな、あんな……如何わしいことをいていたんだ。
「…………」
「何か言いたそうな顔だね」
「言わせたいのは貴方の方では」
「さぁ、私はどちらでも構わないよ」
一筋縄とはいかないようだ。1つ言えることは、この、やたら麗しい男から溢れる言葉自体は全く麗しくなさそうだという事。
そして、きっとこの状況を打破出来る策なんて、私にはすぐ出せないという事だ。
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