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それからフローナさんは目を覚さなくなってしまった。
息はしているし心臓も動いているので生きてはいるのだろう。だが、私とギルベルト様は彼女の居場所を知らないのでどうしたら良いのかを決めかねていた。
彼女に家族や仲間が居たとすれば急に居なくなった彼女を心配しているはずである。
「はぁ……ギルドに聞いてみるか」
「何だったんでしょう」
「変な人ではあったけど、嘘をついているようには見えなかったから、レティは聖女様なんじゃないかな」
「………からかってますね?ギルベルト様」
「ギルって呼んでいいよ」
「怒りますよ」
流石にフローナさんを抱えて出歩くことは避けたいと、ギルベルト様は1人でギルドへと向かった。
私はフローナさんのベッドの横に椅子を置いて一応話を整理しようと外の風景を眺め始めた。
「貴方はあの男が好きなのですか?」
「………!?」
辺りを見渡しても先程と変わらない、ここは誰も居ない部屋だったはずである。しかも声はドアの方から聞こえたのではない、フローナの口から聞こえてきた。
「え、フローナさん?」
「いいえ、私はフローナではありません。今の世界で言う勇者と聖女と共に旅をしていたエルフ、フラワージェ。私は今フローナを媒体して貴方と会話しているのです」
急に何を言っているのかと思ったが、確かに昨日のフローナと比べると落ち着いた話し方をしている。
更に言えばフローナの瞳は閉じたまま、本当に操られていたのではないかと思うほどだ。
「私は、魔王城にて起きた爆発によって体が消滅し、意識だけが残った存在。そもそもエルフには体は存在しておりませんので、その摂理に戻された状態なのです。ご心配なさらず」
「は、はぁ。フローナさんは?」
「エルフは皆通信を繋げることが出来ます故、長く生きればこの様なことも可能なのですよ」
エルフの事情を聞かされても、人間の私からしたらよく分からない内容である。そこに対する理解も上手く追いついていない。体を乗っ取られるなど気分の良い物ではないだろうに。
フラワージェと名乗るエルフは、勇者と聖女と同行していたと言っていた。
一体何故それを私に伝えてきたのだろうか。
「アスティと貴方は本当に良く似ております。恐らく貴方の先祖もしくは前世がアスティなのでしょう」
「アスティ?」
「聖女と呼ばれていた女ですよ」
聖女の名前はアナスタシア。とある国のお姫様だった。そして、姫はその年の捧げ物に選ばれた。宛ては魔王。
彼女は反抗することもなく『名誉なこと』であると従っていたらしい。
唐突に始まった聖女の語りについていけず、私はつい黙って話を聞いてしまっていたが、ふと、我に帰った。止まることが無さそうな口をつい手で塞ぐ。
エルフ2人目にして2人ともに口を塞いでいるのだけれど、すべてのエルフがこうしなければならない相手で無ければ良いなと思いつつ「一旦待ってください」と伝えた。
「何故いきなり聖女様のお話を?」
「そうですね、何故貴方は落ち着いていられるのかなと思ったのです」
「何に対して?」
「全てです」
私は頭を捻ったが、今この、未知の世界に連れ込まれてしまったような現状を打破する作戦は無いという結論が出た。
しかし、今何が起きているんだ、という混乱は止まらなかった。
エルフの能力は知らなかったとは言え、いきなり他のエルフを媒体にして聖女の知り合いが話しかけてくるなどと誰が想像出来るだろうか。
ただ、ここまでいくと私とギルベルト様ができれば考えたくなかった事実、『運命のパートナー』と勇者と聖女の関係が深く結びつき始めた事だけが私の中で理解できていた。
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