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そこの食事はとても美味しかった。
前菜から主菜、デザートや飲み物、特別に金額が高い訳でもないのにギルベルト様も感心するほどだった。
「……聖女様が、お肉を、アルコールも呑まれるなんて……」
「…………」
そして、フローナさんはさらに落ち込んでしまった。
どんな幻想を抱いているのか知らないが、私は、貴方様は聖女だからお肉を食べないでほしいという要望は聞くことができなかった。
別にお肉が大好きという訳ではないが、食べるなと言われると食べたくなる物である。しかもここの料理はとても美味しいのだ、食べないで帰るなどできない。
まぁ、アルコールについてはフローナさんをいじめる為に飲んだに過ぎないけれど……。
「聖女様は何で食べなかったのですか」
「生きていた生命を食べるなどできないと」
「ほほお。でも、このお肉たちは食べられる為に殺されてしまったんですよ。それなのに食べないで残すなんて、逆にお肉に失礼ではありませんか」
「私達が食べなければ余計な命は殺されません」
「でも、その分捨てられてしまうかもしれませんよ」
ああ言えばこう言うと思われるかもしれないが、ここで折れたら私はお肉を食べられなくなるかもしれないと思うと致し方ないと思われた。
そして、私はつい、聞きたかった事が口から漏れた。
「聖女様ってどんな人だったんですか」
その質問は、随分と昔から思っていた事を思い出す。
世界の英雄である勇者と聖女は、一体どんな性格だったのだろうと。
世界が彼らを慕う中でどのように振る舞っていたのか、私はずっと気になっていた。
あまりにも我儘に振る舞っていたのだとしたら、かなり残念に思う。
フローナさんは両手を組み、少しだけ目を輝かせてこう言った。
「とっても、素晴らしい人物でした!」
ガタンと椅子を倒しながら立ち上がると、何かに操られたかのように動きが止まった。
彼女は上を向いたまま瞬きもせずにいるため、私とギルベルト様は少し動揺した後に目を合わせて私から声をかける。
「あ、あの。フローナさん?」
私が彼女の腕に触った直後、彼女はそのまま糸が切れたかのように倒れ込み意識を失った。
私はとても驚いて椅子から転げ落ち、ギルベルト様はフローナさんの頭が地面に落ちる瞬間に慌てて支えてくれている。
「えー、なに、どう言う事…」
「流石に唐突に意識を失われるとは思わなかったな…」
ギルベルト様は彼女をヒョイと肩に抱えると、今日はどこか宿を探そうかと言いながら外に向かっていった。
私も賛成だったので後ろからついてきく。
まるで、操り人形のようだった。本当に事切れたかのように急に倒れ込んだのだから。
普通に感じたことのない恐怖が襲って椅子から落ちたことは頑張っても防げなかったと思う。少しだけ思い出して恥ずかしくなった。
「はぁ………」
意味のわからない事を初対面のエルフに告げられ、謎に慕われ、そして急に意識を失われるなんて。きっと誰も経験した事がないだろう。
色々と考えすぎたからなのか少しだけ頭痛がある気がした。
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