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とりあえず彼女を落ち着かせて今の現状を伝える。
私は平民で彼は貴族だと、そして急に感情を露わにされると人間は驚いてしまうので少し落ち着いてほしい事だ。
「……人間のそのシステムは困ります」
「どういう事ですか」
「私たちにはオーラが見えるのです。だからこそ従うべき人物がよく分かる。だから私には貴方が平民であろうが慕うべき人物であると認識できるのです」
そこまで聞いて気が滅入った。
そんな事言われたって今の私には迷惑でしかない。
確かに物語などに出てくるエルフなどに出会えて興奮はしたが、別に従えたかった訳ではないし、寧ろお願いして手伝って貰えるかという立場のエルフが急に侍女みたいな存在として扱えと迫られてもどうしてよいか分からない。
「………それで、その、聖女様?とはどんな関係だったんですか?」
「私は聖女様の侍女でございました」
「5700年前……の?」
「ええ、エルフで魔力に長けたものは永遠に生きると言われているほどなのです。それくらい生きている者も結構います」
「あ、そうなんですか。それで、何故エルフの貴方が人間になんか仕えて……」
「…………本当に覚えてらっしゃらないのですね」
私の問いにエルフはとても悲しそうな表情に変わった。辛そうに下を向いて肩を震わせている。
ギルベルト様の方を向くと、彼は片手を顎に当てて何か悩んでいるようだ。
この、無言の沈黙が耐えきれず私はコホンと咳払いをした。
「私の名前はフローナと申します、聖女様には私自ら志願して侍女とさせて頂きました………」
彼女は、小さい頃はこの街の7つほど丘を越えたとても小さな街で生まれたらしい。その時から自分が仕えるべき人間が存在している事を把握していたという。
出会ったのは聖女様が魔王を退治して英雄として街に戻った時。興奮してパレードの馬車の前に飛び出てしまった彼女を聖女様は微笑みだけで許し、何があったのかを問うてきたらしい。
すぐさま貴方の侍女として仕える為に生まれてきたのだと伝えたという。
「すると聖女様は快く快諾してくださり、私は自分の役目を果たす事ができたのです。……そう、あの日までは」
「………なんか、嫌な予感がする」
「同感だ」
「あの、コソ泥男が聖女様を孕ませるまでは!!!」
想像以上の大きな声でそんな事を叫ぶ彼女の口を塞いで周りを見渡した。
この状況を想定して既に半個室に通してもらっていた私達は、誰かにこの状況を目撃される事は防げたようだ。
まだ夕食の時間には少し早いこの状況でわざわざ半個室で食事をする者も少ないのだろう。今回に関しては助かったとでも言っておくべきかもしれない。
「もうちょい、声を落としていただけると?」
「申し訳ありません、聖女様」
「あ、うーん。やはり私は聖女様と呼ばれる事はおこがましいと思うのです。私のことは、レティとでもお呼びください」
「………で、できません!!」
私が塞いでいた口から再び大きな声が聞こえると、エルフは『はっ』としたのか大袈裟にしょぼんと落ち込んだ。
そして涙目で私を伺い、どうしてもダメなのかと視線で訴えてくる。
「いや、そもそも聖女とか知らないので。本当に困るんですよ」
「レティが聖女というのは分からなくないけどね」
「ギルベルト様にそう呼んで良いとは言ってないんですけどね」
「良いじゃないか、パートナーなんだから」
「貴様!私が許された呼び方を!!」
ギルベルト様はこの状況を楽しむ事にしたらしい。
エルフの怒鳴りに対して笑いながら受け流している。
私もこれくらい図太い神経を持たないとやってられないかもしれない。
とりあえずまだ注文が終わっていなかったのでウェイターを呼び、飲み物と食事を注文した。
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