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隣町は商業の街とあって様々な人種の人がいた。エルフや獣人などもいるようだ。
初めて見るその人達に、私は興奮が治らない。
隣町まで馬車で約1日ほどかかってしまうし、馬車の運賃もかなり高い為、私のような平民は通常自分の街に留まる。
隣町に行けるのは商業での成功者か貴族のみだ。
ここは存分に楽しんで帰らなければ損だと思った。
「レティシアはエルフや獣人を見るのは初めて?」
「はい!本の中でしか知りません!」
エルフや獣人は寿命が長く、パートナーという仕組みがない。だからか物語などでは、エルフや獣人と人間が恋に落ち『運命とはなんて素晴らしいんだ!』と感動するエルフや獣人達の姿がよく描かれている。
しかもエルフは全員美人だし、獣人は全員カッコいいので物語にはよく登場しており、本物を見た私はまるで有名人を見たかのようなテンションの上がり具合だった。
「私の時はそうでもなかったのに……エルフ達にはそんなに嬉しそうにしている姿を見ると、なんだか悲しいよ」
「どうしました?」
「なんでもない」
ギルベルト様は迷う事なくギルドに入っていくと何やら手続きを始めていた。私は先に案内された調合室に入り棚に置いてある薬草を確認する。
ここでは調合室内にも薬草が置いてありその場で買えるらしい。なんて素晴らしい、少しだけ足らない薬草がすぐに手に入るなんて調合する上でかなり助かるだろう。
「……天国だな、この街」
そう呟いたとき、私以外は誰も居なかった調合室でがしゃんとガラスの割れる音がした。
見ると入り口に1人のエルフが驚いた顔で私を見つめている。
「……な、何か?」
「せ………聖女様!!!」
彼女が悲鳴に近い声でそう叫ぶと、私を真っ直ぐ見つめながら目を見開いている。
「…せ、聖女さま?」
私が困惑して戸惑っているとギルベルト様が部屋へ駆け込んできた。エルフの方を見ながら私の前に駆け寄ると、肩に片手を乗せてどうしたのと声をかけてくれた。
すると突然、エルフはギルベルト様に駆け寄るとパシリと手を叩き、無礼者が!!と叫ぶ。
「このお方に気安く触れるなんて!」
「おお、お……落ち着いて」
ただならぬ雰囲気を感じ取った私達はひとまず場所を移すことになった。その間もそのエルフはギルベルト様を睨みつけて私に近づかせないようにしていたので、一体なんでこうなったんだろうと思っていた。
個室のような場所を借りた私達はとりあえずご飯を頼もうとメニューを受け取る。
「聖女様はお肉は食べられないのですからこちらのスープはいかがでしょう」
「………あの、私は聖女ではないのですが」
「他人を誤魔化せても、私には分かります。貴方は聖女様です」
「……………」
うん、と深く頷かれても私は聖女様ではないのだが、エルフの彼女的にはどうやら違うらしい。
「一体、何を見て聖女様だと言っているのでしょうか」
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