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気がつくと隣にギルベルト様が座っていた。
「やぁ、レティシア」
「……想像より早かったです」
「そう?まぁ、俺は少し怒っているからね。ロイサンテーヌ家の次女に対してもだけど、レティシアにもね」
「…………」
「とりあえず話は後にしようか」
そう言って彼は座席に深く腰を下ろしてしまった。
腕を組んで目までつぶっている。
自分の婚約者の事を名前で呼ばない事とか、一人称が変わっているとかそんな事よりも、怒っているというのにいつもと変わらない笑顔で対応される方がよほど怖い。
なるほどなるほど、ギルベルト様は怒った時は全く目を逸らさないタイプなんですね、記憶しておきます。
それはそうとこのままだと馬車は隣町のギルドに到着してしまうのだが問題ないのだろうか。
「戻らないのですか?」
「ああ、私もギルドの仮登録のままだったから正式に登録しようと思って」
「ええ!?今までたくさん魔物倒していたのに?!」
「学園での練習の一環としてやってあげていたんだけど、これを機に止めるよ」
「それは……」
「学園にお金が入らなくなるだけだよ、既に本登録の許可は出ていたんだから問題はない。ただ、理由を聞かれた時にロイサンテーヌ家の名前を出すだけだ」
「……………」
本来であれば既に入らなかったお金をギルベルト様の好意で入れていたのだったら、学園側としたら文句はつけられないのだろう。万が一に理由を聞かれたら、私を隣町ギルドに連れ出そうとしたからついでに付いて行ったとか言うつもりなのだ。
そうなれば、学園側に単純に残るのはロイサンテーヌ家への恨みとなる。
学園側は、ギルベルト様の本登録についてをロイサンテーヌ家に対して文句を言える訳ではないが、私を連れ出そうとした事に対する注意はできる。
今回の出来事はすべて学園内で起きているため、学園長に対する仕返しも込みなのかもしれない。
今後はギルベルト様を怒らせないようにしよう。本当に味方で良かった。
私は後で怒られそうな事を忘れるべく、ギルドに着いたらどんな薬を調合しようかと頭を働かせ始めたが、
ふと、ギルベルト様がこんなピンポイントで私の馬車に乗ってきたことに疑問を覚えた。
確か、ギルベルト様の使える転移魔法とやらは既に行ったことのある場所かもしくはランダム移動だったはずだ。
私は移動していたし、こんなにぴったりに指標を合わせることは本来不可能である。
嫌な予感がするのは何故だろうか。
「ギルベルト様あの、」
「何?」
「なぜここに、転移することが出来たのでしょうか?」
「ん?ああ!そうだ、昨日言い忘れたけどレティシアの瞳に指標を置いたんだ」
「……は?指標を置く?」
「置ける場所が決まってるんだけどね、レティシアの瞳に置けそうだから置いちゃった」
「な、」
簡単に言っているが、つまりいつでも私の位置を知られていて一生逃げる事ができないという事じゃないか。
ストーカーにも程がある。
だが、今のギルベルト様に交渉なんてできそうにも無かった。
「私の目は土地か何かなんですか」
「そうかもしれないね」
全く笑い事ではない。
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