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ギルベルトとアスティア
ギルベルトはまず、できれば早く向かいたいのでそろそろ出て行ってもらえないかどうかと丁寧に提案をしてみる事にした。
彼女はいつもギルベルトが嫌がることをしない。だからここで引き下がってくれるのであれば何事もなく終わらせようかとも思っていた。
「本日は、ご予定は無いと先程お聞きしたと思うのですが」
「ああ、パートナーを連れ帰る以外はね」
「相応しく無いパートナーはパートナーではありませんわ」
「それを決めるのは私だよ」
「………」
貴族らしく都合の悪い事を言わないアスティアを相手にすることは実に面倒くさい。
彼女は以前より貴族でギルベルトのパートナーだと言い張った人物に対しても同じように何かしら、の対応をした後、ギルベルトが何があったのかを問うと『相応しくなかった』という言い訳を、全て伝えてきていた。
今回も同じように報告をしたと思っている可能性も十分にある。
だからこそ、引き下がらないギルベルトに対してアスティアの方も困惑しているのかもしれない。
「レティシアはパートナーだよ」
「パートナーではありませんわ」
「理由は」
「相応しく…」
「何をもって相応しく無いと言える」
少しだけイラついた口調にアスティアは怯えているようだった。いつもまっすぐに向けてくる視線は空中を泳ぎ、扇を持つ手は僅かに震えている様に見える。
「……困りますわ、私半年後には貴方様と結婚すると聞いておりましたのに。既に周りにはお伝えしてしまいましたの」
「そんな話私は聞いていないよ」
「辺境伯様が仰っておりましたわ」
「そもそも、私に異性のパートナーが出来たら婚約は解消する契約だったはずだ」
「つまりは辺境伯様がパートナーと認めていない他無いのでしょう」
アスティアの言葉にギルベルトはため息をついた。
結婚の話など聞いていない上に辺境伯である父と彼女との間
だけの話であるのに周りに伝えたなどとあって良いことでは無い。
更に、恐らく父は母に相談をしていないで結婚の話を進めようとしているのだろう。自分の辺境伯の地位が母ありきの物であると全く理解していないらしい。
ギルベルトは今すぐにでも母にこの件について言いつけてやりたい気持ちをかなり無理やり押し込めた。
「私のパートナーは何と呼ばれるか知っているかな?」
「どういう意味でしょう」
「では質問を変えようか。運命のパートナーとはどんな人物か、まさか知らないままこの国の住人を名乗っている訳ではないね?」
この国では子供の頃から絵本などでも勇者と聖女の物語は良く読まれている。そして、運命のパートナーは憧れの存在であり知らない人物など他の世界からやってきたのかと言われるほどである。
この国の人物にとっての踏み絵。ここで知らない選択肢を取ることは許されない。
「……それは、世界で唯一の人物であると……ですが!」
「では私のパートナーは誰であろうと何と呼ばれるか、知っているかな?」
「………………」
アスティアは少し立ち上がった体制のまま目を大きく見開いた。顔を扇で隠すことも忘れて私に悲しみを湛えた目で訴えてきている。
「さぁアスティア嬢、扉はあちらだ。帰ってくれ」
だからこそ、ギルベルトは今までで1番輝く笑顔でそう伝えた。
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