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途中でギルベルト視点に変わります。
「シャーロン家は勘弁してくださいませんか、それくらいなら魔法薬ギルドに所属して冒険者となる方がマシです」
「ではその様になさいな」
そう言って彼女は席を立ち、私は再び両腕を掴まれて問答無用で馬車に突っ込まれた。
部屋にある荷物も何も持たされず、私は今お金と共に隣町のギルドへ向かっている。
せめて荷物のチェック位はさせて欲しかったが、ギルベルト様と出会す事を危険視されたのだろう。
非常に残念だ。私はギルベルト様と愛し合っている位言って掻っ攫われるならともかく、こんな誘拐紛いな行為で引き離そうとすることしか出来ない人物だったとは。
と、考えながらも私は連れ去られるがまま移動しているわけで…。
だって、私にはどうする事も出来ないのだから、まともに相手が出来そうな人物にその役割を渡すのみである。
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ギルベルトは頭を抱えていた。
自分の婚約者がレティシアを連れ去って隣町に馬車で送っているとの情報が入ってくるとは思わなかった。
なんとも優秀なレティシアの侍女ララからの情報なので間違いはないだろう。
ララからは『早く何とかしないからですよ』という視線を貰ったのは仕方がない事だが、レティシアもほとんど抵抗をしなかった事には不満がある。
私と離れる事にはそこまで抵抗がなかったという事は自分だけがパートナーを大切にしている気がして虚しいし悔しい。
この気持ちをレティシアにも感じて欲しいなんて、自分が今まで鬱陶しく思っていた女達のようだった。
「ギルベルト様、アスティア様がいらっしゃいました」
「………分かった、通してくれ」
まさかこのタイミングで来るとは思わず、しかしどちらにしろ自分から赴く予定だったため良しとする。
客間に通されたアスティアは何故かいつもよりもよりも上機嫌でありそれが寧ろ気持ち悪くあった。
「ご機嫌よう、ギルベルト様」
「ああ、貴方も息災のようだね」
「ええ、最近お会いしておりませんでしたので、訪ねてしまいましたの、お忙しかったかしら」
「そうだね、これから私のパートナーを迎えに行く以外は特に予定は無いよ」
「……………」
「……………」
アスティアは表情は全く変わらなかったが顔色は少しだけ変わったようだった。いつもはとても饒舌であり、紅茶を一口も飲む事なく帰る事が多いというのに今日は入ってきて言葉を交わして以降一言も話さない。
レティシアについて知られているとは思わなかったのかもしれない。
「相応しくありませんわ」
「なにが」
「あの様な庶民の女では、ギルベルト様に相応しくありませんと申しました」
唐突に話し始めたアスティアは吹っ切れたかの様に表情を持たなかった。よく出来た貴族の娘の見本の様だ。
「少し話しましたが、まるで態度も良くありませんでしたわ。彼女ではギルベルト様のパートナーは務まりません」
「だから、連れ去って良いということかな」
ギルベルトはなるべく優雅に紅茶を飲むと、アスティアにニコリと微笑みかけた。そうまるで、よく出来た貴族の息子のように。
彼女はコテリと小首を傾げると、何を言っているのか分からないような表情をする。
「いいえ、ですから連れ去られてしまったのではないかと申しましたの」
「なるほど、つまり貴方が連れ去ったわけではないと、そう言いたいのかな」
「何のことでしょうか」
貴族の娘は扇で半分の表情を隠しながら、さも自分ではないと主張してきた。
そして、レティシアを連れてきて証人にさせたところで、通常庶民の言うことを正しいと判断する人物は少数。
ましてやギルベルトのパートナーではあるがそれを信じたくない人物によってより悪い状況になる事も否めない。
つまり、今回の事は表に出す事はできないままだろう。
なんとまぁ面倒な事態になったものだ。
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