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ギルベルトの心情
実家から戻ってきてからだったなと、ギルベルトは思っていた。実家から帰り、よりレティシアの事を考える事が増えてからたまに意識が乗っ取られる様な感覚が出てくる様になった。
出会った時から早く物にしてしまえと、ずっと心の底では思っていたのは確かだ。
けれど、今まで1度も自分から好きになった事もなければ、相手を好きになった事もないギルベルトにとって、どう行動したら良いのかも分からないまま、『抱きしめたい』や『キスをしたい』という思考が生まれる事が好きになるという事なのだろうかと思っていたのだ。
たまに意識を持っていかれている。
その事実に気がついたのはレティシアの魔力を受けて2度めのキスをしてしまった時だ。
あの時は驚いた、無意識に夢中でキスをしていたなどと、どれだけ盛っているのかと思ったし、心の中の誰かが、「もっと」と言っていると気がついて慌てて部屋を出た。
確かに溶けてしまいそうなキスで、もっと、永遠にキスをしていたかったのは本当だが、あんなキスをした事は自分の本意ではなかった。
何故なら、次こそはレティシアからキスをしてもらおうなどと子供じみた事を企んでいたからである。
その時に、『抱きしめたい』などと考えてくる思考が心の中で『もっとキスをしろ』と言っている人物ではないかと気がついた。
自分でも何を言っているんだろうと思うが、これは自分の思考ではない。
数多くの女性との遊びをしてきて今更ではあるが、レティシアに抱く想いは他の女性とは全く違うものだ。
そしてその『思考』が抱く内容は以前の自分と同じ様ながめつく、欲望のままであり、今の自分は存外清らかな好意をレティシアに対して感じている、と思う。
嫌われたくないなんて、母親に抱いて以来だ。
割とロマンチックな自分を少し気持ち悪く思うが、この『思考』に邪魔されたくないらしく、レティシアの同意の上キスをしたいらしい。
だが、この好意を持った事でより『思考』に囚われやすくなったのであまりレティシアの事を考え過ぎても良くないという事は理解していた。
多分これが純粋な恋心という事なのだろう。
あの2度めのキスをするまで、自身の心情がまるで分からなかったが、今理解してようやく落ち着いた。
欲目を抜いた彼女への感情だけをなぞれば自分が常に彼女を気にしていた事も思い出せる。
行動力には感心させられるし、勉強にも熱心で、とても素直。しっかりしているかと思えば、急に自分を実験台にして実験をしたりするので危なっかしくて目が離せない。
いつの間にか一緒にいて楽しく、落ち着く人物になっていたなんて、恥ずかしくて絶対に誰にも言いたくはない。
正直恋心を抱いた相手がレティシアで良かったと思う。
もし婚約者などを愛していたとすれば、こんな無理やりな『思考』は投げ出したくなる……。
こんな状態であのレティシアの事を振り向かせる事などできるだろうか。
しかも、父がレティシアとの結婚を許す事も考えにくいうえに、未だ婚約の解消も進んでいないのだ。
解決していない問題が山積み、そして生徒会の仕事もこれからまた忙しくなりそうな事を思い出す。
「はぁ………1度全てを無にしたい」
やっと好きな人を見つけられたのに、何が運命だ。
けれど『運命』が無ければレティシアとは出会えて居なかった。感謝するべきか否か……。
ギルベルトは頭を抱えながら今日は早く寝ようとベッドへ移動するのだった。
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