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運命のパートナー達の事を考えると残酷であったとしか言いようがない。自分の意思ではない他人を心の底から愛しているという錯覚に陥らせられ、強制的にパートナーとなっていたのだから。
では何故、私達はそこまで影響を受けていないのか。
……………。
「……あれ、ギルベルト様も私の事を愛している訳じゃ無いですよね?」
「その言い方はあまり気に入らないが…強いて言えば、常に衝動を抑え切れない程ではないではないね。この、過去の運命の偉人達のように」
「わお、たまに愛してくれてるんですね」
「………今度理性で抑え込まないであげようか?」
「だ、結構です」
まさかギルベルト様も割と影響を受けているとは思わなかった。他の偉人達とギルベルト様、と、私の差といえば魔力が言えるのではないだろうか。
影響は魔力量に準じ、共鳴もそうだとしたら、私の魔力はこれ以上増やさない方が良いような気がする。
「まぁそうだな、影響を受けている時に共鳴をされたら抗えないとは思っているよ」
「それほど影響は大きいのですか」
「レティシアが居ない時に、何故すぐに抱きしめられないんだろうと悲観するもう1人が体の中に居て、私は『何故そう思うのか』理解しようとするイメージかな。そこにレティシアが現れたら一気に意識を持っていかれそうになる」
「へぇ、なるほど、大変そう」
「そんな事をしたらレティシアに嫌われるだろうから、毎回争って勝っている」
「………そんな多いんですか?」
「割とね」
視線を合わせないギルベルト様を見ると、嘘のように感じてしまう。私はじっと彼を見つめるとギルベルト様は紅茶を手に取ってゆっくりと飲み干し、そしてコホンと咳払いをすると私と目を合わせた。
「謝ってもいい?」
「謝る?」
「実は何度か、キスをした事がある。ああ、その、唇に」
「…………」
「その度に、レティシアの魔力は格段に増えていて。そして、その度に意識が持っていかれそうになるタイミングが早まっている気がする」
ギルベルト様が脚を組み直した後に再び視線を逸らすと手を口元に持っていく。
その仕草だけで色気が漏れている事を彼は気がついているのだろうか。
私が「それで?」と口にすると彼は、少しだけビクリと肩を揺らし視線を晒したまま再び口を開いた。
「1度目は自分の意識もあったが、2回目は完全にキスをした直後にキスをしていた事実に気がついたんだ。これ以上のキスは危険だと思った」
「ん?私から1度もした事ないですけど」
「この間私からのキスを受け入れそうだったじゃないか」
「あの時は貴方様の視線から逃れなかったんですよ、共鳴で」
「…………」
再びこちらを向くと、とても不満そうな顔をしていた。
そんな顔をされても困る。
でもやはり、そう考えると影響を与えているのは魔力以外には考えられない。
ギルベルト様に中の人がいると仮定したら、私とキスをさせて私の魔力を増やし、早く運命に抗えなくさせようとしているようにも感じる。
「……やはり距離を取りましょうか?」
「離れていたら、無理にでも会いに行ってしまいそうだし、久々にキミと会えた瞬間に熱烈なキスを贈る気がするよ」
「うわ、私の事大好きみたいじゃないですか」
「………そんな事をしたら嫌いになるくせに」
「………ギルベルト様も私の事好きなんですか?」
「………」
ギルベルト様は黙り込むととても深いため息をついた。
私はもう何度彼のため息をみているのだろうか。
だって、彼の言い方があまりに子供っぽくて可愛かったのだ。少しからかってしまう事は仕方がない。
「……もう寝る、おやすみレティシア」
「おやすみなさい」
だけどこの時ギルベルト様がどれだけ耐えていたのか、私は知っておくべきであった。
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