35
ギルベルト様はまるで物語の様に彼らのことを語り始めた。
『トルトリア家夫婦』
数々の生活用品を生み出した開発神の夫婦と呼ばれている。さらに2人の莫大な力を利用した《電気》は魔力が使用できない平民達の生活を大きく変えた。
現在電気は魔力を使用しなくても生産ができるようになっている。
夫婦が出会ったのは魔法学校であった。
2人は出会った瞬間に周りの目を気にせずに熱烈なキスをしたとして有名だったそうだ。
すぐ付き合い始めた2人は、当たり前のように結婚して夫婦になったとされている。
だが、深く調べると2人は大変仲が悪かったとも記されている。
『本当はこんな事したいと思ってない!』などと言い合っている場所を何度も目撃されているとされる新聞記事が出た事がある。
それは当時ゴシップ記事としてはかなり取り上げられていたようだ。
『アーサー&ピーターペア』
2人は同性だったが、運命によって導かれて永遠のパートナーとして共に過ごしたとされる。その功績は極めて異端であり、唐突に大量の魔族達と共に暮らし始めたと言われる。
そして、その間は魔族達が人間を襲う事は無かったという。
何故2人がその選択をしたのか正確にはわからないが、最後に『少しでも罪を償いたい』と言っていたらしい。
それ以前のパートナー達に関しては、詳しい内容を調べる事は出来なかったがいずれも『奇妙』な動きはあったらしい。
「奇妙?」
「ああ、たまに別人のようになる瞬間があったらしい」
「つまりは……」
「この『運命』とやらは私達の意思で動いていない時と同義ではないかと思っている」
私は、例の日記を取り出してギルベルト様へと手渡した。
彼は無言で受け取ると本を開く。
「読めます?」
「読めないが……魔力を感じる」
「解除とか出来そうだったりします?」
「うーん、今の所そう言った魔力は感じないな」
「そうですか……」
ペラペラと全てのページをめくり、最後の10ページはやはり固まってしまっていたようだ。
解除をする、という感じではなく、寧ろ魔力凝固だと言う。
魔力凝固とは、どちらかと言うと呪いに近いみたいだ。原因は不明らしい。
「内容をお伝えしますね」
私は書いてある内容を簡単に話したのち、読める中で最後のページについてをギルベルト様に伝えた、念のため文字に書き出して手渡す。
「これは……本当だったら大変な事だ」
「しかし私にだけ、読めるというのが気になります」
「そこなんだ、関係があるようにしか思えない…」
この情報は外部へ漏らすには内容が重すぎる。
私達は言葉を失い黙ったまま紅茶をすすり、今までにない深いため息をついた。
これ以上この案件を追及したくない気持ちが溢れて止まらない。しかし、何故か向き合わなければならない気がしてならない。
「どうしましょうかね」
「追及をやめたい」
「やめられると思いますか?」
「……無理だろうな、恐らくこれも逆らえない『運命』だ」
お読みいただきありがとうございます!




