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「それにしてもレティシア、今のは何?どの魔力上昇系の魔法か分からなくて、果たして今の結果が凄い事なのか判断つかない」
「あ、すみません、今のは通常の《アップ》より弱い効果です」
《アップ》は10%の魔力上昇魔法だ永続時間は1時間。ただ、私の場合はこの《アップ》さえ出来て5回である。多分魔獣などと常日頃から戦う方達はこれを通常使いした後により強力な上昇魔法を使うのだろう。自分の魔力は時間経過によって回復するとはいえ、魔力回復のスピードは自身の魔力量に比例するため、私はかなり遅い。つまりは1日で考えても使えて10回程。その為、想像で補う事が出来るこの無詠唱を使用してみたのだ。
「弱い?本当に?何%上昇する想定だったんだ?」
「5%」
「え」
「5%です、ギルベルト様」
「それは……驚いたな」
その後、学園長に対しても同じ内容で行ったところ、殆ど火の大きさには変化が生じる事はなかった。
「確かに、レティシアの魔力量の変化を見ても、同じ魔法が使われたと考えて間違いないな」
「想像以上だ!!!これは素晴らしい瞬間を目撃してしまった!」
うるさい学園長からの依頼で《アップ》も重ね掛けすると火は先ほどの5倍ほどの大きさになる事が分かった。
これ程の変化を目の当たりにすると自らの魔力も素晴らしい物だと錯覚しそうになる。
「……ふう」
「疲れた?」
「まぁ、少し」
重ね掛けする為には少し多めに魔力が必要となる。
つまりは現在私の魔力は枯渇状態な訳で、
「おっと」
歩き出そうとした私は足に力が入らず体が傾いた、それをギルベルト様が支えてくれる。
「魔力枯渇によるものだな」
「……ええ、そうです」
「無詠唱は素晴らしいがこうなるのであれば使わない方がいいよ」
「いえ……無詠唱だからではなく、単純にこうなるのです」
「……なるほどね、それならばたくさんキスをしないといけないなぁ」
そんな事を呟くとお姫様抱っこをされてしまった。
目の前に迫る顔に私は出来る限り顔を遠ざける。
「……口は、嫌です」
「なぜ」
「こ、恋人同士で行うものだから。だって、ギルベルト様には婚約者様がいらっしゃるではありませんか」
私の言葉にギルベルト様はキョトンとした顔を向けてきた。まるで初めて聞いたかのような反応に、私は驚く。
まさか口づけは恋人同士でやるものだと知らなかったのではないか。
恐らくかなり遊んでいるギルベルト様的には『おはよう』位のテンションで誰にでもできるというのか。それならば相当にだらしない。
「ああ、そうだった。婚約を解消する事を忘れていた」
「って、えええ!」
そんな軽い口調で言っていい内容ではない。
貴族にとって婚約とは家同士を結ぶ大切な義務だと聞いている。それをこう易々と関係者の可能性が高い平民の前で言わないで欲しい。驚きで心臓が止まって死ぬ。
ギルベルト様はたまに私のおでこにキスをしつつ近くにある医務室に私を運んでくださった。
ベットに下されるまで私は驚きで固まっていたのでされるがままであったが、ここは一応聞いておく必要があるだろう。
「あ、ギルベルト様」
「なに?」
「それは、私がパートナーだからですか?」
「ん?ああ、婚約の話?」
「はい」
「そうだよ、レティシアがパートナーだから早く破棄の手続きをしたいと思っている」
やはりか!!
ベッドの上に下ろしてもらったのに更に具合が悪くなるというまさかの展開。
ギルベルト様との思考の振り幅が違いすぎて頭に『世界の動物図鑑』でもぶつけられたかのような頭痛がする。
天然なのか知らないがもう少し平民の私との思考を理解してはもらえないだろうか。なんて、難しい問題点を思考する。
いや、昨日少しだけ近づいた気がしたのだから待ってみよう。そして私も理解するよう努めよう。
本当は何故破棄するのかを聞きたいところであるが体がもたないようだ。
私は気絶するように眠りに落ちた。
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