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そういえば、魔法を合わせたことはあっただろうか。など考えるまでもなかった。何故なら昨日パートナー許可を出したからだ。
しかし、合わせたこともないのにパートナーを名乗ることなど普通はあり得ない。そもそもが運命のパートナーがあり得ないのだから仕方がないと思う。
「魔法の譲渡だけ行いました」
「……!」
はっと思い出してギルベルト様を見るとニコリとした笑顔がそこにある。
「おお!既にキスはしているのか!」
「違います!おでこにされただけで!」
「でも私はキスをしたよ」
「それは!!……そう、ですが」
ニヤニヤと笑う学園長をどうにかしたい気持ちはさておき、確かに魔法の譲渡はされていた。普通であればパートナー契約を結んでいないと出来ない魔法譲渡。それはニヤニヤもされるはずだ。
「……ほとんど確定だね」
「ええ、ですから下手に騒がないで頂きたい」
「…………」
私はもう、両者とも口を閉じてほしい。
完全肯定の情報をこの学園長に与えることは必要だったとはいえ、何故その情報を伝えたのか。確かに確定的な情報はそれしかないが、何か別の…いいや、最早これでいいだろう。
「しかし、どれほど魔力相性が良いのかについてはまだ測定しておりませんので、訓練所をお貸し頂ければと」
「勿論だ!!私もご一緒しよう!」
「もう、なんでも良いです……」
話によると学園長は癒しの魔法が得意だそうだ、もし万が一何かあった時に側に居てくれる事は助かるらしい。ただ、あのうるさいガヤが近くに居る中での実験なんて考えただけで気が滅入る。
しかし、仕方がない。そもそもギルベルト様の力を目の当たりにした事が無いのに容易に断るなどは出来なかった。
木造で作られたその中は、まるで外観からは想像が付かないほどの広さを持っていた。ここは魔法によって作られた空間なのだそうだ。中で起きた事は全て幻想として処理されるため、腕が千切れようが頭が取れようが本体が外に出た瞬間には元どおりらしい。
ただし、頭が自分を死んだと判断して死亡した人が何人か居るようなので余りに悲惨な状況にしてはならないとの事。
「では、始めます。まず私が普通の火を出し、その後レティシアから魔力増進を受けてから火を出すという形でどうでしょう」
「分かりました」
ギルベルト様が人差し指を立てると《火よ》と唱える。すると、その人差し指程の大きさの火が指先にボッと出現した。
私は火よと唱えたところで豆粒程の大きさしか出ないが、通常はこれくらいなのだろう。なるほど、当たり前だが生活魔法でさえこれ程劣るのか。
ギルベルト様の視線が向けられた。
私は、通常の人であれば5%の魔力上昇魔法をかけるため、パチンと指を鳴らす。ギルベルト様は少しだけ驚いた表情をした後すぐに《火よ》と唱えた。
ゴオッ!!
火はギルベルト様の顔程の大きさで出現していた。彼の前髪が少し焦げていてつい顔を背ける。
「レティシア」
背筋から少しだけ冷たい視線を感じながら、そのままの体制で結構増えましたねーと呟いた。
通常5%上昇の魔力をかけただけで倍以上の火が出現したという事は、戦っている時のギルベルト様にかけたら一体どうなってしまうのだろう。少しだけ恐怖を覚えた。
「レティシア、笑っているのは分かっているよ、怒らないからこちらを向きなさい」
「…………ふふっ!」
思ったよりも近くに居たギルベルト様の前髪を直視し結局吹き出してしまった私は、ギルベルト様からチョップを受ける事となった。
うそつき。
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