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という事で開始でございます
「ええ、皆。集まってくれてありがとう。今日は重大な発表があってここに集合してもらった」
現在、年の終わり頃位に行われる舞踏会もどき以外では珍しく全校生徒が広場に集められていた。
恐らく皆んなも不思議に思っているのだろう、なにもない時期に呼び出された事は初めての事だ。辺りからはざわざわという音が僅かに聴こえてくる。
「静かに」
ここで学長が落ち着きなく『こほん』と咳をした。
「ええ……ほ、本日から、ええ……あー」
「………………」
あまりの歯切れの悪さに再びざわめきが大きくなり始めた時だ。後ろから声が聞こえてきた。
「学長様、私の紹介にそんなに勿体ぶらないでほしいのですが」
しーーんという音が聞こえてくるかと思った。
この場に居るはずのない人物の登場に皆んな一斉に息を飲んだに違いない。
「あ、ああ。申し訳ありません。あまり貴方様の様な方が来られる場所ではなくて。ええ……本日より1か月、この学園に通う事となっている。ギルベルト・ファン・ザヘメンドさ…君だ」
『様』、と紹介しようとしていたのだろうが、ギルベルト様の圧力に、『君』と言い直す学長を見て、既に呼び名では変えられない位置関係に居るような気もするが、今は皆、何故ここにあの有名人が来ているかの方が気になっているのだろう。
ギルベルト・ファン・ザヘメンド
ザヘメンド辺境伯爵の息子である。
ザヘメンド地区にある森には様々な魔物が出るとされているがその魔物から王国を守る為に作られた騎士団がいつの間にか多くなり、街ができた。そこを取り仕切るのがザヘメンド家だ。
今まで多くの実力のある魔剣士を輩出してきた家ではあるが、その中でも歴代トップクラスの魔力と実力を持ち、輝くその白銀の髪には光が吸い寄せられ、アメジストを切り取ったかの様な瞳にはどんな宝石も叶わない、などと謳われているのがギルベルト様であった。
私たちの学校は24箇所ある魔法学校の中で最下位位に位置するが、ギルベルト様の通う学校はトップ独走のナンバーワン。
そして彼自身、その学校ではシングルナンバーワンの成績なんだとか。
つまりは、露店で彼を主役にした記事が売り出された途端買い占めが起き、昨日は何をしたのかを平民皆んなが知るくらいにはプライベートなんかない有名人である。
その彼が、こんな錆びて枯れたような学校でお目にかかれるなんて、一体全体何があったのか。
「皆様はじめまして。私はここに、パートナーを探しに参りました」
そして、パチリ。
目が合った。
___ぞわ。
「…………」
なんとも言えない感覚に逃げ出したくなる衝動が加わる。
しかし、話しを続けている彼の視線は既にこちらには向いておらず、気のせいかと思い直した。
誰しもがきっと、自分があの有名な魔剣士がパートナーかもと夢を見るものだ。
私の先程のあれも、そんな興奮を感じただけに過ぎないと考えたのだった。
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