18
「ギルベルト、レティシアに相応しい侍女は誰だと思うかしら?」
「相応しい?」
「ええ!そうよ!」
ギルベルトは早朝の朝食前にアナリアの部屋に呼び出されていた。彼女の顔には『徹夜しました』と分かるほどの隈ができていたが、裏腹に表情はとても輝き、楽しそうだという事が何も言わずとも伝わってくる。
しかし、彼女の言葉でやはりレティシアに専属の侍女がいない事は学校に通うにあたり不便なのだろうと分かり、ギルベルト自身の表情は暗かった。
「全く、侍女の要求はあの人が突っ返したって本当なのかしら?いっぺん首絞めた方がいい?」
一応出していた侍女の要求は、『平民なのだから全て自らできる、要らないだろう』という父の判断で無かったことにされている。恐らくアナリアの元へその要求が行く前に揉み消されたのだろう。
アリシアは侍女を渡す気満々だったようなので、今回特別に怒っているのかもしれない。
「ああ、そうだわ。ララにしましょう!ララならレティシアに相応しいわ!」
「ララって…母上専属の侍女ではありませんでしたか」
「あら、専属と言ったって3人いるのよ?全く問題はないわ!」
「そもそも、相応しいというのは……」
そう言うと、アナリアは驚いたように目を大きく開き、信じられないような顔をして黙った。
話し始めたら止まらない彼女がそういう反応をする時はあまり良い思い出がないが……。
「え、貴方分かっていないの?レティシアが居なくなったら貴方のパートナーは居なくなるのよ?なに、それともパートナーという存在自体必要ないだなんて思ってる?あっはは。まさかそんな事は…ないわよね?」
「………」
アナリアは、笑わせないでちょうだいと言いながら片手を振りそのまま顎に手を当てる。
「それにね?まだ報告では出ていないけれど今後絶対に出てくるわ」
「出てくる?」
「貴方よりも強い人物よ!パートナーの相手との協力によって確実に断固たる地位を得るのよ」
「……何か、知っているのですか」
「あら!今の貴方には関係のない話だわ」
アナリアには先見の力が備わっている。
それは、毎日夢を見るというアナリアがごく稀に見るとされるものであり、それが本当に先見の夢だったのかを確信することはあまりない。
多分何かの情報を得た上でそれが先見の夢だと確信しているのだろう。
にやりと笑いながら大きめの扇を緩やかに仰ぎ始めたアナリアは、侍女のミミに新しい紅茶を淹れるように指示をしている。
ネネ、ララ、ミミという3人の侍女は王家にも配属を多く出しているマラディアン子爵家の三姉妹であり、それはもう侍女のスペシャリストと言っても過言ではない。皇女様の侍女に推薦されていたにも関わらず、アナリアに仕えたいとやってきた出来事は割と有名な話だ。
その1人をレティシアに付かせたいという。更に言えば、『相応しい』らしい。疑問が残る言葉に首を傾げてみる。
「そうだわ、ミミ。ララを呼んできてくれるかしら?早速提案してみなくちゃね」
「かしこまりました、アナリア様」
「ふふ、ごめんなさいね、ミミ。ララにして」
「……奥様が決めた事ですから構いません」
そして、この侍女の反応を見る限り、恐らく自分達が仕えるに相応しい相手であると認識している事だろう。他の貴族達を相手し、毎回仕えたいかどうかをアリシアから確認されてきた彼女達の反応を見てきたが、こんな反応を見せた事は一度も無かった。
昨日のあの短時間に、レティシアは一体何をしたというのか。
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