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「急に色々終わっていく。どう言う事か分かりますか、ギル様」
「……分かることは、勇者魂が因縁の癌で、その魂を消したから今までの因縁が消えたということだけだな」
「世界は世界の英雄である勇者のことを悪とは扱いたく無かったんだろうな。勇者の魂が魔王の魂を引き寄せ、勇者の魂が聖女の背後霊であるレティシー姫を配置さてていた事がお前たちの悪い循環を生んでいた」
それを生み出したのが世界的に有名な聖女であるというのだから驚きだ。そもそもだが、魂の性質が力を持たなくなり性質の通りの生活を行わなくなったのは、それを維持できなかった世界に責任があるのでは無いか。と思っている。
無理に働かせようとしたせいで我慢が吹っ切れ、勇者は女に狂い、聖女は他人からの好意を求め、悪になった魔王は倒された。最初からバランスが良い世界など存在してはおらず、それを正とした世界こそが狂っていたのではと。
本来あるべき姿が、誰かの犠牲の上に成り立つならば、それは本当にあるべき姿なのか。
「物語の終焉が使命なら、この世界の希望する物語も終わらせてしまって問題ないですよね」
「レティ。何をするつもりか説明してくれるかな」
「私は、魔王が悪だった世界が間違いであったと、世界に知って貰えば良いのかと思うんですよ」
「……つまり?」
私が聖女だと言われても信用はされないことは承知している。
だが、今のギルベルト様を勇者の魂と偽っても世間の評価的に取り上げたい話題となるはずだ。
もし、世界的に悪だと認められた魔王が実は正義だったと全世界に発表したら、『世界』はどんな反応をするのだろう。
「アカ、世界は自我はないのかな?」
「そうだな、自我は無い。世界を正そうとするだけだ」
「世界を正す、情報を人間たちの望む形にするということ、なんだろうな」
最初は悪では無かったはずの魔王も、勇者と聖女の悪巧みで世界に悪だと認められたことも実証できている。
魔王を正と認め、その相手に聖女を当てはめ始めたりしたら面白そうだ。
「ドラゴンは倒されましたね。勇者と聖女の運命のパートナーに。でも、それが嘘で、手懐けた魔王が登場したらどうなると思いますか」
「世間に出回った映像はどうするのだ?」
「そんなの、アカが前に出ていけば問題ありませんよね、一瞬位いいですよね、アカ」
「……あまり、好ましくは無いのだが」
「でも、魔王の性質を持つ魂が世間的に正義だと認められる瞬間なんて、そうそうありませんよ」
外に出たら、なぜか私とギルベルト様は狙われた状態になるだろう。
その前にアカと共に発表を行い、手懐けた私たちを殺せないようにしたいという魂胆もあった。
殺されず、全ての人が味方となり、世界全体に知らしめる機会など、こんな好条件以外にはないだろう。
「皆さんに聞いていただきたいこの後のシナリオがあるのですが」
私はそう言って、皆に向かってニヤリと笑みをこぼした。
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