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神が言うには。
聖女の性質も持つ魂は、本来とても清らかな性格をしている。
その力を私欲のためには使用せず、誰かのためだけに与えていく存在でなければならない、という話だった。
たとえ、愛する人が現れたとしてもその人物のためだけには使用してはいけない。
よく言えば、勇者というのもそれを許容できる性質を持っているはずである。
一体何がずれてしまったのか、いつしか勇者は女癖が悪くなり、聖女のほうも自分の力を見せつけるために魔法を使用するようになってしまった。
特に、リヒュタインとエターナルの時が特に酷かったらしい。
フロワージェはそのためにエターナル姫から聖女の地位を奪い、自分が代わりにリヒュタインとパートナーになってから女癖を叩き直す使命が科されていた。
珍しいエルフの侍女として城へ上がれば、すぐに「聖女と呼ばれているその人」のもとへ進むことができた。
面白い話を聞きたいという願いは把握していたので、その昇格は必然だったように思える。
実際出会った時のエターナル姫はとても人の良さそうな笑みを浮かべて人々と対応していたために、フロワージェは本当に彼女は心が真っ黒なのかと疑った物だが、本音を聞けば「こんなこともう辞めたい、早く格好いい騎士などと結婚でもして後ろの舞台に下がりたい」と言っていた。
それに、所詮、自分にとって良いことを言われるだけで喜ぶなんてチョロすぎでしょう、とまで呟いていたのでフロワージェは耳を疑った。
こんな言葉を使う人物だったのかと、改めて神の声を考え直した。
ついに、隣国との婚約に異を唱えた聖女は、
魔王の存在を極悪なものとして発表して退治をしにいくなどと私欲のために結婚を延期したのだった。
フロワージェは、勇者も参加するというその部隊に参加しない訳にはいかず、常に2人のことを監視することになってしまった。
エターナルの魂と、リヒュタインの魂は、本来性質的には惹かれ合うはずであった、しかし、あまりにも性質に背いた行動をおこしていたからなのか、いつの間にか悪巧みを共有する悪友のようなパートナーを作り上げていた。
互いの顔については、互いに素晴らしいと褒めあっていたが、性的な好意は一切抱くことはなかったように見える。
一つ、問題があるとすれば、聖女の性質を強く授けられたフロワージェ自身が勇者のことを盲目的に好いてしまったことだろう。
これは完全に《神》のせいだと言わずしてなんだというのだろう。
不意に我に返った時、フロワージェは自分の日記に「気を確かに持つように」という内容を書き綴り、なんとか日々を過ごしていた。
どうやら、こんなに勇者に好意を抱いてもなお、他人のために力を使用することが、聖女の美談となるらしい。
綺麗事すぎて反吐が出そうだった。
こんな、魂の性質なせいで相手を好きになり、でも相手に対して自分の力を使ってはいけないなんて縛り、本当に必要なのだろうか。
フロワージェはいつしか神に対しても疑問を抱くようになっていた。
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