148
ドラゴンさんは自分をアカと呼ぶように言ってきた。
赤色だからアカなのかと聞くと、覚えやすい名前が一番良いのだと言う。
「チョコは追われてこれしか買えなかった」
「ああ、分かっておるよ。そして追ってきたやつをここで捕まえればよいだろう」
「もしかしてアカはそのために向かわせました?」
「それもある」
受け取ったチョコを口に入れながら、アカは手をクルクルとと回している。
渡したのは板チョコで5枚ほど渡していたのだが、すでに1枚は口の中へ溶けた。
「もし追いかけてくる奴がいたらこの罠にかかってこの魔法陣の中から出てくる仕様だ」
アカは自慢げに腕を組んで説明をしてくれた。
どうやら、この谷に入ってきた侵入者がいれば今アカが作成した魔法陣の中へ閉じ込められてしまう仕様らしい。
現在ドラゴンは倒されたとされているので、そこまで警戒して降りてくる者もいないのだろう。
道中普通であれば遭遇する魔物との戦いをさせた方が、ここまでやってくる人数を減らせると思っていたが、アカ的にはおびき寄せてから倒してしまった方が楽なようだ。
全てアカが倒してくれるならば私としては問題がない。
楽しそうなアカを見ていると、魔法の実験をする私とかぶるところがあって少しだけ親近感が沸いた。
きっと戦うことが好きなのだと思う。
アカは何かのチェックを行うと、うんうんと頷いて私たちに向き直り
では、と言ってあぐらをかいて座った。
「追手が来るまで先ほどの続きを話していようか」
ドラゴンの姿の時よりもなんとなく気さくになったアカは、楽しげに腕を組むと呪いについて話し始めた。
呪いとは、魂が殺されたときに発する悲しみを集めて発動する魔法のことを言うらしい。
その悲しみは魔力を持たない物でも発し、魔力とは違うが近しいほどの力を持っている。
当たり前だが、そこに目をつける者が現れて、悲しみを使って魔力をカバーしようとした。
だが、その悲しみの力は使うごとにその術者に対して同等の悲しみを与える力だ。
大きな呪いを発動すれば、その分大きな悲しみがその術者を襲う。
そこに気がついた者は、奴隷を使って呪いを使わせた。
奴隷に呪いを発動させることによって、悲しみを回避しようとした結果である。
始めのうちは問題なく発動できていたその呪いは、しかし、その奴隷達が死ぬときに命令を下した人間にも同じ悲しみを与えることが分かり始めた。
結局呪いは発動したいと願った者に同じほどの力が返ってくるとして、どんどん使用はされなくなっていった。
「つまり、呪いは現在はほとんど使用されていない魔法の一種ということだ」
「どの時代が一番使用されていたのですか」
「お前たちに呪いがかけられた時代が最も利用されていただろうな。なんせ、ある王国は呪いの力で国を立ち上げたのだから。なぁ、レティシーよ」
『……』
先ほどから黙っていたレシーはアカの答えに口を開かなかった。
お読みいただきありがとうございます!




