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エミリは怯えていたが、シャックと共にドラゴンの元で待ってもらうことにした。
転移魔法の使えるギルベルト様が向かった方が戻りも早く、私の希望なのだから私が動くべきだと思ったからだった。
シャックが起きてしまったときは、ドラゴンが眠りの魔法でもかけると言っていたので、しばらくは問題ないだろう。
転移魔法で山を降りた場所にある街に来ると、すでにドラゴンは討伐されたと記事になっていた。
シャックがドラゴンを倒した絵が大きく描かれて街中に配られている。
一枚もらって中身を見ると、あの有名な魔剣士ギルベルト様が手も足も出なかったドラゴンを一発で倒したとも書かれていた。これではギルベルト様の評判もかなり下がってしまうだろう。
「有名になりたくて魔剣士をしていた訳ではないが、嫌味な書き方で気分が悪いな」
「事実とは異なるので気にする必要は全くないですが、この新聞社は裏でシャックを操っている貴族様と結託している可能性がありますね、覚えておきましょう」
「それはそうだな」
街に降りてからすぐに買ったフードを被っているので周りからすぐにバレることはないが、長く滞在することは危険だろう、早くチョコを買ってしまいたい。
チョコを売っていそうな小さな雑貨屋へ足を踏み入れると、ギルベルト様は私の手を引っ張った。
そしてそのまま早足で街中を歩く。どうしたのかを確認したいがそんな暇がないのだと分かり、できる限り早く足を動かした。
息が切れて数分、ギルベルト様は大きな雑貨屋へ入った。
入ってからもジグザグと歩き、チョコの場所までたどり着いた。
「もしかしなくても、追われてますか」
「おそらく」
ヒソヒソと話すと、私はチョコを片手にガシリと掴んだ。
キッとギルベルト様を見上げると、彼はにこりと微笑んでうなずいた。
再び彼に手を取られると、流れるようにレジで会計を済ませて外に出る、瞬間、ギルベルト様は私をお姫様だっこをして地面を蹴る。
おそらく周りの人たちは見えなかったはずだ。
瞬間に屋根の上に飛んだ私たちは、無事にドラゴンの元まで戻ることができたのである。
しかし、最近ギルベルト様からお姫様抱っこされることが多いので帰ったらダイエットでもした方が良い気がしてきた、少しでも負担を減らすにはきっとこれが最短だろう。
ドラゴンの元へと戻ると、そこには赤い髪をした、細い体つきの男性が座っていた。
足元のシャックの頬をつついて声をかけている。横にはエミリがしゃがみ込み泣いているように見える。
「……やりすぎたか?でもしっかり息はしているだろう」
「うう、死んじゃったら、ドラゴンさんのせいなんですから」
「また魔法で起こせば良かろう、おい、泣かんでも」
困り果てたその姿からは想像はつかないが、話し方が私へチョコを買うように指示を出した本人のような気がしてならない。
「ドラゴンさん?」
「おや、早かったな。チョコはあったか?」
赤の髪をした人間が立ち上がって笑った。やはりドラゴンはすでに人間の姿で待っていたらしい。
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