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《黄金のスター》!!!
そんな声が聞こえてきた。
これはもしかしなくても、シャックの声だ。
エミリの声は聞こえなかったので1人で唱えたのだろう、しかしここまで輝きがもれてきた。
眩しい光はドラゴンの住む寝床にまで浸透してドラゴンの眉にはシワがよる。どうやらあまり明るい光は好きではない様子。
だんだんと近づいてくる2人分の足音に、私とギルベルト様は嫌な予感がした。
『知り合いか』
「一応。そうです」
『知り合いにも一応を付けられるとは、他人よりもひどいのではないか』
ドラゴンは面倒の相手はごめんだと、先ほどまで開いていた瞳を完全に閉じてしまう。
これは、有益な情報を聞けていたのに、これ以上は話してくれないかもしれないということだろうか。
それは困る、ここにきてせっかく魂の因縁から解かれる可能性を見つけることができたのに。
「ド、ドラゴン!倒しにきた!」
「はぁ、はぁ……」
ばたばたと入ってきたのはやはりシャックとエミリの2人だった。
2人の周りには先ほどの呪文で出したのか、眩い光を発する魔法陣が浮かんでいた。
シャックは剣を突き出しながらドラゴンに向かって叫び、エミリはそのシャックの洋服の袖を必死に掴んでいる。
おそらく新品のその剣は、とても輝いてはいるが使い慣れていないことが丸わかりであり、剣の重さで手が震えていた。
以前一回ギルベルト様と共に魔物と戦った以外には戦闘体験はしたことが無いのではなかろうか、すでに足がすくみ、体がかちこちだ。
「シャック、無理だよ、帰ろう」
「だ、だめだ……倒さないと、倒さないとだめだ」
「……」
勇敢に立ち向かおうとするその姿は、もしかしたら素晴らしいと評価される場合もあるが、この状態ではまったく様になっていない。
むしろどうして立ち向かおうとできるのか理解に苦しむ。
やはり、洗脳されているのかもしれない。
『その魔法陣を閉まってくれ、目が焼けるだろう』
「そう言われて止める奴がいるのか!」
『では、《我はすでに死んだ》』
「な……」
一瞬、シャックの黒い目が一瞬真っ赤に染まると持っていた剣を落とした。
何が起きたのかと近くに寄ろうとすると、シャックはそのまま目を閉じると前のめりに倒れてくる。
ギルベルト様が慌てて支えると、何かに気がついてシャックの顔に耳を寄せた。
「ドラゴンは、倒された」
「ど、どういうことなの?シャックは、死んじゃったの?!」
エミリが少し取り乱しながらシャックの顔を覗き込んで頬を叩いているが、背中が上下しているので息はありそうだ。
しかし、ドラゴンが何かをしたことは、この場にいた全員が感じていた。
あんなに怯えていたとはいえ、何も攻撃をせずに1人を昏倒させるなんて普通はできない行為である。
「あの、何をしたんですか」
『は、洗脳された頭に我が倒された映像を投影しただけだ。結果的にそ奴の頭には自分はドラゴンを倒したとして認識されるだろうし、記憶を覗く者がいても嘘偽りないと判断される』
「つまり、彼を連れ帰ればドラゴン討伐完了の判断がされるということなんでしょうか」
『ああ、嘘つきを判定する装置にかけられても、本人は倒したことになっているから問題はない』
「なにその、便利機能」
ドラゴンは、その言葉にフンと鼻を鳴らした。
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