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「なるほど、それはどちらの事を言っているんですか」
ギルベルト様は懐から本を取り出してドラゴンに見せていた。
一体何を言っているのだろう、元魔王は今本に閉じ込められているアギィトス様のことを言っているのではないのか。
だが、ドラゴンはギルベルト様の方を向いてお前のことだ、と言った。
「俺が、魔王だと?」
『魂が魔王の形をしている』
「魔王の形というのがあるのですか?」
ギルベルト様の問いに、ドラゴンは少し驚いたようだった。
目を大きく開いて口を閉じている。
そうしてゆっくりと顔を上げるとこちらに向き直う形を取ってきた。
しかし、その位置はとても高く、完全にこちらを見下ろしている状態だ。
『そんな魔王の魂をしているのに、魔王を引き継いでいないのか』
「魔王を引き継ぐ?俺が知っている魔王は何千年も前に勇者に封印されたはずです」
『いや、だが、しっかりと定期的に魔王は生まれていた。封印されたのであれば魔王は定期的に蘇っていたことになる』
慌てたように何かを考え始めるドラゴンを尻目に、そんな前からドラゴンは寝ていたんじゃないかという仮説が出てきたことにも私は驚いている。
気がつかなかったなんて、あまりの感覚のズレに引いている。
数百年笑っていないとか、本当なのか。
「やはり、そんな前から魔王という存在はいたのですか」
『ああ、いた。魔王は魔族たちや魔物などを管理する重要なポジションだ。邪魔者は排除して、魔族たちが生活しやすい環境を整えることが仕事だったはずだぞ』
なるほど、魔物が稀に暴走するなんてものを防ぐ役割をしていたのかもしれない。
そんな魔王は、とある人間の我がままで人間の魂に封印されてしまったんだけど、とギルベルト様が説明する。
ドラゴンは呆れたようにため息をついた。
『いつでも馬鹿はいるもんだ、確かに魔王の魂ははじめから変な形をしていたが、今はもっと変な形をしているな』
「魂って引き剥がせたりしないんですか」
『そんな事をしたら魂に傷がついて二度と目を覚まさないぞ』
だが、とドラゴンは言う。
『くっついている魂を燃やし尽くすことは出来るぞ』
「……それは、どちらか選択出来るんですか」
『どう言うことだ』
「ギルベルト様が魔王なら、くっついているのは勇者の方ということで良いですよね」
万が一にでも、魔王の方を焼き尽くされては、クズな性格をした魂しか残らなくなってしまう可能性があるのだ。
そんなこと絶対に回避したいに決まっている。
『ふん?ではその勇者にかかっている再びお前の魂の元へ巡り合わせとなる魔法も消えてしまうが良いのか』
「魔法?呪いの類かと思っていました」
『なるほどな、呪いも見える、だが、先ほど言った物はただの魔法だ』
ドラゴンの言葉を信じるのであれば、今私たちに掛かっている魔法や呪いがいくつか存在することになる。
「だから、少し複雑だったのか」
「ずっと全部が呪いのせいだと思っていました」
「そうだね」
気がつけば、あんなに怖がっていたドラゴンと普通に話していた。
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