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ドラゴンは薄らを目を開けて私を見てきていた。
特にそれ以上動こうなどとは思っていないようで、攻撃をしてくる様子は全くない。
私は飛び出した大の字の格好のまま体が動かなくなってしまったので
仕方なくこのまま話すことにした。
「え、ぇえとぉ」
思い切って大きな声を出すと、喉が震えて上手く言葉を発することが出来なかった。
立っていることも辛いと思っていると、膝ががくがくと震えている。
こんな怖がってることを前面に押し出すなんて人生で初体験だな、なんて客観的に見ていると、ドラゴンの方からブホッという音が聞こえてきた。なんの音だとさらに驚いていると、ドラゴンの体が僅かに震えている。
つられて地面も微振動が走ってきて体に細かい振動が伝わった。
「うぐ、ぐ、ぐ」
呻き声も我慢するが、地面が揺れているため声もどうしても震える、ギルベルト様も頑張ってバランスを取っているように見えた、そんな時。
『はっはっは!!!なんだその怯え方呪いの人形か!』
ついに我慢が出来なくなったドラゴンは本気で笑い始めた。
なんとなく笑いを堪えている気はしていたが、まさか人生でドラゴンから本気で笑われる日が来ようとは誰が想像しただろうか。
しかも、本当に耐えきれなかったみたいに笑うのはやめて欲しい。
『はぁ、こんな笑ったのなんて何百年ぶりだ』
「そんな笑ってないんですか」
『なんだ、もう普通に話せるのか。つまらんな』
まだ震える膝をわざと大袈裟に揺らすと、ドラゴンは面白いのかまた大きな声で笑った。
今度はその声の息で空気の圧が襲って飛ばされそうになる。
ギルベルト様がなんとか私を押さえて、ようやくその笑いが収まると、ドラゴンが『すまない』と言ってきてまた驚いてしまった。
『我もここまで力を欲している訳ではないのだ』
「というと、普通に笑ったりしたい、という意味ですか」
『近いな、別に、近くにいる人間たちを害そうなどとは思っておらん』
「知っていたんですか」
『そりゃあ知るだろう、ここに住う魔族などは我に情報をよこすからな』
その言葉に、この谷って魔族とかいたのか……としみじみ考える。
真っ暗で何も見えなかったから良かったものの、もしかしたら襲われていた可能性もあったのかもしれない。
なんなら戻るのがすでに怖い。
『なんだ、今ので怖がったのか。魔族たちには襲わないよう言ってある。問題はない』
「魔族と話せるんですか」
『正確には話せているか分からないが、毎度言いつけは守るから問題はない』
なるほど、と言うとドラゴンはギルベルト様の方を向いてこんなことを言ってきた。
『で、そこの魔王はどう思っているのだ。我を倒したいか?』
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