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ギルベルト様の魔法でゆっくりと谷を降りていくと、魔法で守られているにも関わらずだんだんと暑くなってくる。
彼自身も暑いのか、洋服の首元を少し緩めている。
「これは、結構暑いな」
「これ以上暑くなって大丈夫ですかね……」
ギルベルト様もドラゴンとは初対面だからなのか、かなり不安そうな顔をしていた。
書物にも具体的な内容が書かれないほど、研究も進んでいない。それがドラゴンという存在だ。
暗くなっていく視界に、恐怖が増していく。
「大丈夫?」
「ちょっと、怖いですね」
ちょっとではなく、かなり怖いのだが今伝えても結果は同じだろうと、ちょっと意地をはった。
そもそもこれ以上暗くなり、ドラゴンに近づいていくのにもう、かなり怖いなんて言ったらギルベルト様は地上へ戻ってしまう可能性もある。
今の恐怖を一瞬無くしたところで再びここに来ることになるのだ、怖い時間を長引かせる必要はない。
それにこれ以上待っていたらシャックが死に急ぎそうだ。
「体が震えているみたいだけど」
「だ、大丈夫です」
「上に戻ろうか」
「戻らないでください!早く解決して帰りたいです」
少しだけにこりと口角を上げたギルベルト様は、私が真っ直ぐ下を向くと先ほどよりも早いスピードで降り始めた。
しばらく無言で降りていくと、ようやく足が床についた感覚がある。
しかし本当に真っ暗な時って本当に何も見えなくなるのだな、と考えていると腰に手が添えられた。
「レティ?」
「ギ、ギルさま?」
「こっちから魔力が流れてくる、いこう」
「道が見えているのですか」
「見えていないけど、分かるんだよ」
恐らく、明かりを点けてはいけないのだろう。
ゆっくりと道を案内してくれるギルベルト様もいつもより慎重のように見える。
(レシーは見えてるの?)
『見えてないですよ、でもレティシアに掴まっているので』
(掴まれるの?)
『前掴まれることを確認しました、逸れたとき困ったので』
なるほど、と思っているとギルベルト様の足が止まる。
しかし、何も口を開かないので私もつい開けていた口を閉じた。
「レティ、この先にいる」
「た、確かに荒い息遣いが」
「ドラゴンの息だろうな」
ずっと真っ直ぐに進んでいたが、止まったちょうど左側を向いた方向から先ほどからその音が聞こえてくる。
谷中に響いていた低い風が吹き荒れる音は、ドラゴンの息遣いだったらしい。
どうやら今は寝ているようだった。
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