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「シャック!!」
そんな声が聞こえてきたのはギルベルト様へ薬を渡してからしばらくしてからだった。
ギルベルト様もその声に気がついて駆け足でその場に近寄った。
すると、目の前に突然地面を切り取ったような崖、いや大きく空いた谷が現れる。
その崖に片手をついて何かを支えている人物が居た。
「エミリ!」
エミリが崖から落ちそうなシャックを支えていた。しかもシャックは手を振り解こうともがいている。
このまま放置していればシャックが谷底へ落ちてしまう事は明白だ。
「離せ!この下にドラゴンがいる!!」
「だめよ!そんなことしたら死んじゃう!」
ギルベルト様が近づいてシャックの腕を取りグイッと引き上げると、エミリには抵抗できていたシャックも力が足りなかったようだ。シャックはずっと、離せと暴れていたがギルベルト様が睡眠の魔法を使ってしばらく眠ってもらう事になった。
ギルベルト様は念のためとシャックの腕を縛ると、横に寝かせた。
谷底を恐る恐る見てみたが、あまりにも深く底が見えない。
真っ暗な空間が広がっており、こんな場所から落ちたら普通に考えても死んでしまう。
魔法が使えたらと言っても、ここまで底知れぬ場所へ落ちていくなんて命知らずと言っても良いだろう。
「本当にこの下にドラゴンがいるのか」
「シャックは、そう言っているけど……」
多分、本当にいるのだろう。
今の彼は普通の状態ではないのだ、きっと誰かにこの場所を教わってきたに違いがない。
「ここまで深いと観察しに行く事も難しいな」
「下の方明かりなさそう……ドラゴン自体光っていたりしないんですか」
「ああ、ドラゴンは基本的に体の周りに光を絡って存在しているわけではない」
『この下から僅かに強い魔力が見えます』
(ドラゴン?)
『そこまで正確には……」
ギルベルト様も眉を潜めながらじっと下を見ているので何かがいるのは間違いないだろう。
そもそもこんな底が見えない谷底に存在が出来る強い魔力を持った生物なんて限られる。
普通に考えてドラゴンかもしくは同等の生物が底にいるのだろう。
考えただけでも行きたくない。
だが、想定よりも穏やかな底に私はほっとしていた。
暴れていると聞いていたけれど、温泉地に来てから特に大きな揺れなどは発生していないのだ。
今なら怒ってはいない気がして、会いに行くなら今だと言いたくなった。
これ以上先延ばしにしても意味がなく、ちょうどシャックも眠っている今がちょうど良い。
「ギルベルト様、行ってみませんか」
「……この2人は」
「シャックさんの目が覚めたらこの薬を食べさせて、エミリ」
「何これ」
「激にが痺れ薬」
「な、なんてものを持ってるのよ」
何かあった時のために痺れ薬を持って来たが、思っていたよりもすぐ使用することができた。
でも渡したから飲んでくれるとは思えない。
「意識が戻りかけた時を狙って飲ませてね、効くまでちょっと時間かかるの」
「分かった……」
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