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ちらりと目を合わせるとエミリは疲れたような目をした。
あの様子だと長時間世話をしていたと伺うことができる。
昨日の夜は「洗脳をといてほしい」と言って少し長い時間話をしていたのだから、それ以前まで落ち着いていたんだと思う。
つまり、戻ってから今までの時間で何かおかしくなってしまう事件でも起きたと予想できる。
しかし…あの様な悲惨な姿を周りに見せても良いのだろうか。
どこかの貴族の命令通りに動かなければならないのではなかったのか。
「レティ、あの2人」
「はい、どうしたんでしょうか」
周りを見渡すと2人のあまりの様子があまりにもおかしい為か、食堂に残っていた人達が次々に席を立ち始めた。
食事の途中だった人たちも先ほどよりも慌てた様に食事を進めている。
「……ギル様、なんかこう、周りに貴族の人がいるか分かったりしますか?」
「周りに2人を監視している人間はいないよ」
「知っていたんですか?」
「突然平民が現れること自体普通ではないから、少し調べたんだ」
ギルベルト様はあの2人の過去を簡単に調べ上げていた。
ただ途中、この学園に入る直前から入ってからの調査が異様に難航しているらしい。
「あの男、シャックの過去は優秀な人物だったんだ。魔法の能力はやはり平民の平均レベルだが、他の勉強の成績はもちろん、他人に対する対応も見本にしたいと言われるほど。そんな人間があんな馬鹿な行動を取るとは思えない」
ギルベルト様はそう呟くと席を立ち上がった。
まだ手をつけていない食事を手に持ってエミリとシャックの前の席に座ると普通に食べ始める。
私はその行動力に少し驚きつつも同じ様に食事を持って席を立った。
「え、え、な、なんでギルベルト様とレ、あ、平民の……」
「ずいぶん、しどろもどろだけど、大丈夫か?」
まさかこちらから近づいて来るとは思っていなかったのだろう、エミリがとても焦った様子でギルベルト様へ話しかけていた。それに対してギルベルト様がニコニコとした笑顔で応えている。
今まではエミリ達に苛立ちを覚えていたけれど、昨日の話を聞いてエミリに同情の念が湧いているのでちょっと可哀想な気持ちになった。
哀れな目を向けるとエミリから助けろという視線をうけた。
ただ、私にはこのギルベルト様へ反抗する気持ちにはなれない。
私が応援のためにグッと拳を向けると、諦めた様に大きなため息をついた。
「どうしたのかな、そんなため息をついて」
「通常の私に、あの私を演じるなんて無理だわ…」
「え、そんな簡単に諦めていいの」
彼女は無言で顔を上下に何度もふると、机に突っ伏した。
「温泉から帰って来てから、シャックがおかしくなっちゃった。それから監視の奴らもいなくなったし……一体どういうことなのか全然分からなくて、もう嫌」
温泉から戻ってから?
「ギル様、確か温泉一緒だったって言ってましたよね?その時、様子どうでしたか」
「ん?ああ、温泉の時……普通だったよ。俺の本を勝手に触るまではね」
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