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私が先ほど汗も滴る良い男と言ったのは、一応客観的に見てそう呼ばれてもおかしくはないと思ったからである。
そして普通に汗で濡れているから早く着替えて来いという意味合いも込められていた。
それなのに、先ほどからギルベルト様は顔を赤くしてそわそわと落ち着きがなく、椅子に座らない状態だ。
「なんですか」
「さっきレティが俺にかっこいいと言ってくれたから」
「かっこいいなんて一言も言っていませんよ」
「……え?」
私がそう伝えると、ギルベルト様は少し悲しそうな顔で席につく。
そんな犬が尻尾をおろしている様な落ち込み方はやめてほしい、なんだかフォローしなければ行けないみたいではないか。
少し時間が遅いからなのか、先ほどよりも食堂にいる人数はとても少なかった。
これならば呪いの話をしても周りの人達の耳には入らなそうである。
「ギル様……」
一応声のトーンを落として、レシーと話した呪いの話を伝えると、「だから、今回はどちらだろうね」と言われたのかと言い始めた。それに加え、以前フローナというエルフがいただろうと話始める。
「そのエルフは自分は魔族とエルフのハーフだと言っていた」
「え、そんな、その2種が交わることなんか」
「ああ、その時に、自分が生まれた理由がある様なことを言っていたんだ…」
「もしかして、この呪いの上に魔法を上書きしたのは」
「フローナというエルフだったんだろうな」
つまり、エルフは呪いに触れることは出来ないが、そこに魔族の血が混じっていたら可能となるということか。
まさかとは思うが、この呪いの解除のためにそのフローナさんは生まれた…のだろうか。
エルフは純血を好むことは誰もが知っている。
そのエルフと魔族のハーフなんて、普通に考えてあり得ない事だ。
そう思うとフローナさんともう一度話がしたくなった、一体今までどんな待遇で生活をして来たのだろうか。
何か、不遇の扱いを受けて来てはいないだろうか。
私が落ち込んだ顔をしていると、ギルベルト様が私の心情を察したのか机の上を指でトンと叩いて来た。
「大丈夫、理由があって生まれたことで、不幸な日を過ごしてきた訳ではなかったらしい」
「そうなのですか?」
彼は目を細めて優しそうな顔をしていた。
きっと彼も心配をしたのかもしれない。
「そうですか」
それは良かったなと思っていると、レシーの声が聞こえてきた。
『そういえば、この学校付近ではエルフは見ませんが、何故なんでしょうか』
「なぜ、学校付近ではエルフが見受けられないんでしょう」
「ん?ああ…。それは学園長が」
ギルベルト様がそこまで言葉を発し、止めた。
私の後ろをじっと見つめると眉を潜める。
後ろを振り返るとエミリ達パートナーが食堂にやってきたところだった。
いつもの様に必死に話しかけてくるかと思えば、エミリがシャックと教えてくれた男の子の方の様子がおかしい。
少し虚な目、ぼさぼさの頭、歩き方もどこか頼りなかった。
一体何が合ったのか、昨日エミリが言っていた「おかしくなる」というのはこのことなのか。
エミリは必死にシャックを支えてどうにか席についたようだ。
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