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目が覚めてから顔を洗ったところで私はふと思い出した。
そういえば、ギルベルト様の方は温泉でどんな会話をしたのだろうか。
昨日温泉で一緒になったと言っていたはずだ。
私は本を遅くまで読んできたので目の下には隈ができた顔を見つめた。
ギルベルト様はすでに起きており、外に出て剣を振っていた。
練習を欠かさないなんてやはり努力家だと思う。
宿の食堂に顔を出してギルベルト様の朝食はまだか確認すると、取っていないと言う。
それならば、この本の話も、温泉の時のこともそのタイミングで聞けば良いだろう。
『それにしても、本能に忠実になる呪いと、感情が昂りやすくなる呪いが柱となっているとは思いませんでした』
(確かに、もっとヤバイやつが本元かと思ってた)
一番始めに綴られた呪いがレシーが言った2つの呪文だった。
だが、かなり強力な呪いらしく誰かを恨んでいる人へ本を手渡すと怒りが爆発して恨む人物を殺しに行ってしまうほどだそうだ。
そして、術者は特定の人物にしか本が強く発動しない設定する事ができるため、今回は勇者であるリヒュタインが該当するだろうとのことである。
だた、その呪いの上から緩和する魔法が施されており、それは綴られていた2つの呪いの力を媒体として発動させてあるため、今の本は、リヒュタインが表に出て本と接しない限りは呪いが強く発動することはないらしい。
本は2つの呪い以外の呪文もたくさん綴られ、それは恐らく今までリヒュタインとアギィトスの魂が生まれ変わった時に本に触れた人間が書き綴ったのだろうとレシーは言った。
内容は、様々であったが完成している物はほとんどなく、これも上書きされた魔法によって壊された可能性が高いとのことである。
『唯一残された完成呪文は、ある一定の法則でリヒュタインかアギィのどちらかの魂が封印されるものだから、今回はリヒュタインが封印されたのかもしれません』
(それはとっても良い情報だね)
『はい、アギィならきっと私たちを傷つけることはしません』
本についてレシーと話をまとめていると、ギルベルト様が外から戻ってきたところだった。
タオルを肩からかけて額の汗を拭う姿は、それだけでお金が取れそうなほどに神々しかった。
「あれ、レティ」
「ギル様、そのただ漏れの色気を早く退けないと食堂が不穏な雰囲気です」
「え?なんで…」
宿舎の食堂はギルベルト様が運動していた場所へと直で繋がっているため、朝食を食べていた観光客の方たちもその神々しいギルベルト様を目にしてしまっていた。
夫婦かカップルで食べている女性が目をキラキラさせてギルベルト様を見ており、男性が怒りや悲しみを浮かべているのである。
せめて、汗で張り付いた上半身の白シャツを着替えてきて欲しい。
「……レティも俺のこの格好、あんな目で見てくれないかな」
「それ本人の目の前で言うセリフではないと思います」
「じゃあ、どうかな?」
「は?汗も滴る良い男ですけど。早く着替えてきてください。話したいことあるので」
私が真顔でそう答えると、まさか『良い男』と言われると思っていなかったのか、少し顔を赤くさせ、分かったと呟いて部屋へと戻って行った。
とりあえず食堂にいる女性たちが男性に説明をする時間位は確保出来ただろうか。
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