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温泉から戻るとギルベルト様はすでに部屋に戻っていた。
私はのぼせて倒れ、エミリと話をしていたのだから当たり前だ。
ギルベルト様は椅子に座ってずっしりと重そうな本を読んでいた。
「ギル様、温泉気持ちよかったですね」
「ああ、普通の湯船よりも体が温まったような気がするよ」
ギルベルト様は本を閉じると椅子から立ち上がり、私の髪に触れてきた。
まだ湿っぽい髪は、エミリと話し込んでいたために少し冷たくなっている。
「さて、レティ。あの『運命のパートナー』と言い張る女の方とは話ができたかな」
「な、なんで分かったのですか」
「こちらにも彼が来たからだよ。しかも何か会話をしていた事は聞こえてきていたよ」
「……えっと、その。他には誰かいましたか?」
「いや、最後まで2人しかいなかったと思うが」
ギルベルト様は少しだけ考える素振りを見せると、簡単に種明かしをしてくれた。
会話が聞こえてきたのは、温泉に入っていた時のみだと教えてくれたため、やはり脱衣所で話してよかったと安堵する。
エミリはそのことを知っていて脱衣所に連れてきたのかもしれない。
普通にギルベルト様は知っていても良いだろうと、エミリから聞いた話を要約して話してみる。
話終えるとギルベルト様は顎に指を当てて黙ってしまった。
私が最後に立てた仮説、私たちの状況に似ているのではないか、というような内容に特に眉を寄せていたように思う。
「でも、少し似ているなと思う位で」
「いや、偶然ではないだろうな…。その裏にいる貴族がどんな人物だかは分からないが、少なくとも俺たちの状況を知っているか、この呪いを知っているかどちらかは確実だと思う」
私たちの状況を知っている人物なんているのだろうか。
実は運命のパートナーは呪いによって作られた、人工的な産物ですと把握している人物。
もし知っているならば、フロワージェと組んでいる可能性は濃厚だ。
『フロワージェさんと組まれていると、とても面倒ですね』
(かなりね……)
『おそらくですが、この呪いは私の元の国で作られた呪いで間違いはないでしょう』
「え、そうなの!」
「ん!?レティシー姫か?」
「あ、すみません…」
「いや、全くいいんだが、突然大きな声はあまり出さないで、ほしい」
唐突な呪いの発言に、私はつい驚いてしまった。
レシーの元の国ってヤバい場所だったのかなという不安もある。
だって、呪いが存在している事は知把握していたが、作り出すというのは万人にはできない所業だと認識している。
『でも、おかしいのです。我が国はこちらとは常時使用する文字が違うのです』
「というと?」
『ギルベルト様が持っている本に書かれている呪いは、こちらの文字で書かれておりました。つまり、わざわざ書き換えられたという事です』
「誰かが書き換えて、本を完成させて……リヒュタイン様とアギィトス様に呪いをかけた?なんのために。しかも私……レシーには本が存在していないのに?」
『あ、なので、一度本をしっかり読み込ませてほしいと』
今のレシーの言葉をギルベルト様へ伝えると、快く本を手渡してくれた。
現在呪いの動きはなく、リヒュタインも起きてこないらしいとのことだ。
レシーは『少しドキドキする』といいながら、私に本をめくる指示をしてくれる。
作業は深夜まで続いた。
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