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エミリは平民の中ではまだ裕福な家庭に育った。
シャックも同じ位裕福な家庭に住んでおり、そして近所に住む幼なじみであり流れで恋人となり過ごしてきた。
学校はなんとレティシアが前に通っていた学校で、数ヶ月後には卒業、一応そこそこ高い成績を修めていたため、将来も安泰だとエミリはまったりと日々を過ごしていた。
そんなある日、少し様子のおかしなシャックがエミリにこう言ったのだ。
「運命のパートナーになろう」
エミリは意味が分からなかった。
そもそも「運命のパートナー」とはなるものではない。
「何言ってるの?そんなのなれる訳ないじゃない。そもそも私たちパートナーの相性98%なんだからそこまで求めなくても」
そうだ、私たちの相性は98%通常の人たちよりも高い数値であり、判定が出たとき周りは「まるで運命のパートナーのようだな」と褒めてくれていたのに。
それに対してシャックも頬を染めて嬉しそうにしていたじゃないか。
エミリはよく分からない不安に襲われていた。
「エミリ、まだ僕たちは上を目指せると言われたんだ」
「…シャック?」
「僕たちがどれだけ幸せで素晴らしいパートナーなのか、世間にもっと広めるべきじゃないか」
シャックの様子にエミリは背筋が凍ったようだった。
先ほど感じた少し様子がおかしいというのは間違いだ、まるで正気じゃない。
まるで視点の合わないその瞳には、僅かに怯えるような色がうかがえる。
確かにエミリたちは何度か貴族から声がかかるほどに外見もよく、魔力も低いながらもその相性の良さである程度の火力があった。
でも、2人で生きていきたいと全て断ってきたのは、シャックの意見が大きかった。
2人で旅でもしながらゆったりと過ごしたいと、互いの両親たちにも許可まで取っていたのだ。
彼はそんな状態のままエミリの手を取ると「すまない」と言葉を漏らしエミリの意識を奪う魔法を使用した。
エミリが次に目を覚ましたときはある貴族の屋敷の中である。
正直、それはただの脅しだった。
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「その脅しってどんな内容なんですか」
「別に敬語とかいらないわよ、でもその内容は言えない。流石に貴族からの魔法は抵抗できなくて、誰にも言えなくされてる」
「ふぅん?まぁ、仕方ないか」
脱衣所の長椅子に座り、今までの経緯をさくっと話したエミリからはその貴族に対する怒りが見えるようだった。
その貴族からは常に監視されているため、指示通りの動きをしなければならない、そして、日常的には操られているので意識も朦朧としている。
さらにシャックには何か洗脳か、呪いか、何か意識を乗っ取られてしまうような何かがされているため、様子がおかしくなった日からは以前のように話す事が出来ないらしい。
そこまで聞いてふと、自分達の状況に似ているのではと思った。
特にギルベルト様の状況と、彼女のパートナーであるシャックの状況はとても類似している。
もしかして、同じ呪いなのか。
では彼女の悩みを解決できれば、こちらの呪いも解決できるのでは。
でも貴族の名前を聞くことは出来ない。
「その貴族、近くにきた時に何か合図してくれないかな」
「例えば?」
「う、ウインクとか?」
「は?何言ってんのよ…」
確かに操られている状態で気がつかれないように合図を送ってもらうことは普通に無理だろう。
「そろそろ行かなきゃ、とりあえず、私は『運命のパートナー』にはなりたくない。覚えておいて」
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