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そもそも、恋として人を好きになることが良く分からなかった。
母のことは好きだ、他の兄弟、家族のことも好きである。
前の学校のクラスメイトのことも好きだ、パートナーが出来始めたあたりでグループを作って話す機会は減ってしまったが、毎日他愛のない会話を繰り返せるほどには好きであった。
では、ギルベルト様のことは?
住む世界線が全く違う人だったので友人になるとも思わなかった。
そもそも初めて廊下で会った次は女の子とキスしていた場面に出会っている。
異性関係の噂であまり良い話も聞いたことがない、そんな人に世間的に言うそういった好意を持つなんて誰が想像するものか。
ふわふわ頭の馬鹿な女位しかギルベルト様を好きにならないだろうなんて、いつの間にか消えていた。
多分呪いのせいで自分のことを好きになったあの方は、自分だけを大切にしてくれた。
自分のために色々と犠牲にして駆けつけてくれたこともある。
贈られたドレスや宝石は私のことだけを考えられて作られていたのだ。
そんなの、いい人だなって、素敵だなって思ってしまうじゃないか。
私も多少運命、レシーの魂にかけられた呪いに引っ張られて体が動かなくなったこともあるが、所詮その程度だ。
ギルベルト様から聞くように乗っ取られてしまう感覚は一度もない。
だから、誰にも抱いたことがない、自分ではコントロールが出来ないこんな酷い、未知の感情がきっと好きってことなんだろうなと思った。そして、私自身の感情なんだろうとも。
まぁ、今後もずっとギルベルト様の好意が私に向くことが確実であれば、私だって多少は乙女な感情を表立って出しても良いかと思う。
でも彼は呪いのせいで私を好きな状態だった。
呪いの影響を受けていた魂が離れた今でも優してくるのは、
きっと自分の摩訶不思議な感情が面白いと感じているだけなのだ。
完全に呪いの件が終わったら私のことなんか、きっとどうでも良くなるに決まっている。
つい変な思考が頭を埋め尽くしていたのでレシーの言葉が聞こえていなかった。
必死に私に声をかけて来ていたらしい。
『今ギルベルト様が持っている本にアギィはいるみたいだけど、リヒュタインも一緒に本に閉じ込められているのですか』
(それは、一緒の魂になっているんじゃないの?)
『いえ、それはありません。だって、リヒュタインの中にアギィは閉じ込められているのです』
(なるほど?)
そう言えば、どちらなのだろう。
アギィトス様、勇者リヒュタイン様どちらかの魂に呪いがかかっていたのか。
術者は、魔王と勇者の魂のどちらに呪いをかけようとしたのか。
『フラワージェさんが言っていました。運命のパートナーを本来の位置に戻すんだと』
(じゃあ術はフラワージェさんが?)
『でもおかしいんです、エルフは自然と寄り添うことが世界に求められているので呪いには関われないはずなので』
では、企てたのは彼女かもしれないが実行者は別にいるということか。
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