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陛下に対して無礼にも先に言葉を発してしまった。並び始めてまだ少ししか経っていないと思っていたが、陛下が私達を先に通してくれたらしい。
考えながらだったので、ギルベルト様にエスコートをされて前に進んでいる事に気がつかなかった。
「楽しませるなんて、そんな恐れ多く……」
ギルベルト様は先程のゾッとする綺麗な笑顔を浮かべながら、にこやかに陛下に応えてくれている。
きっと私が使い物にならないと理解しているのだろう。
「何、勝手に話題に上げてしまってすまないね。どうにもできない事情があり先んじて許可の方はもらっている。後で説明を受けてくれ」
「何故私たちには説明が当日に行われたのですか」
「現在赤の竜が何らかの影響を受けて暴れているらしいんだ、その影響が分からなくてね」
「……それが、理由でしょうか」
「ああ、それ以外に何があるのかな」
先程『呪い』などと発言してしまった事をここまで反省しなければならないなんて思わなかった。
今回陛下からは簡単な挨拶と、現在の竜の状態を説明されたのみで終わったが、再び呼び出される未来が見えている。
陛下の側から離れても何となく気が散ってしまい落ち着かなかった。
煌びやかな空間に1人だけ取り残されたような感覚がして手にギュッと力を込めると、ギルベルト様が少し屈み込んで顔を覗き込んできた。
「どうした?」
「いえ、なんとなく」
ふと視線を合わせると、顔の近さに驚いた。
少し近づけば鼻と鼻の先が当たってしまいそうだ。
「レティシア、少し向こうで話して来る。1人で平気?」
「あ、はい」
気がつくとフワリと抱きしめられ、髪にキスを落とされていた。
髪だからなのか、少しだけクラリと頭が揺れたのみで魔力の受け取りの反動は収まった。
それよりも顔が熱くて仕方がない。
久々にここまでスキンシップをされた。
ふと思い出す。
そういえば周りには沢山の貴族が居た気がしたのだが、記憶違いではないはずだ。
確か婚約しているとはいえ、最近まで平民だった私が貴族様達に許されているとは思えない。
陛下との挨拶を終えて壁際近くに居たとは言え、これ以上大きく場所を移動する事は止めておくべきだろう。
近場にあった水の入ったグラスを手に取ると、より壁際まで移動した。
ちょうどそのタイミングでレシーの声が再び聞こえた。
『複雑すぎる』
「あれ、終わった?」
『レティシア……終わりませんでした。思い出すにも限界があって』
「まぁそうだよね、めっちゃ時間経ってるし。寧ろよく覚えてるよ」
考え始めると周りの声が聞こえなくなるなんて、さっきの私みたいだな、なんてくだらない事を考えてみる。
そして、数百年前の事なんてよく思い出せるなとも感心する。
「これが小さいパーティーとか、私の世界と違いすぎて困惑するよ」
『多分数千人規模ではないですか』
「なるほど……確かにそう聞くと小さなパーティーだ」
レシーが笑いながら大きいパーティーの人数を教えてくれると、私は自分の世界がまるで変わってしまったことをより認識した。
価値観が似ているレシーも、前はお姫様だったのだから大人数のパーティー位は開いた事があるのかもしれない。
レシーは、「レティシアは今後多く出席するようになる可能性が高いので慣れた方が良いよ」などと言ってくるので、
つい、「私が数百人のパーティーに慣れるなんて、想像しただけでも吐き気がする。どちらかといえば給仕に回りたいよ」
と言葉を漏らしていた。
こんな場所で働くことも恐れ多かったのだ。私は。
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