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完全に私の事が見えていない2人に対して、私が何か言葉を発する必要は無いだろう。
そう考えながらギルベルト様を伺うと、エスコートをしてくれている腕に乗せた私の手の甲に、そっと手を乗せられた事に気がつく。
ギルベルト様は、背筋にゾクリと来そうな眩しい笑みを浮かべ私へ視線を合わせてきた。
それは、逃げるなという言葉が見えてきそうな程分かりやすい行動である。
「把握していると思うが、私と貴方達は敵と言っても良い状態だよ。何故このように話しかけて来るのだろうか」
「何を言っているのですか!私達が運命のパートナーに間違い無いのですよ、そこに最強の魔剣士であるギルベルト様の協力なんて負けなしでしょう!」
そう言えば、私はこの女の子の名前を覚えていないと気がついた。恐らく、『運命のパートナー』を引き継いでくれる人物であるとしか把握していなかった為に、個々人の名前を聞いていなかったせいだろう。
「……レティシア、そろそろ陛下への挨拶をしなければね」
「ええ、そうですね」
ギルベルト様が問いかけた後は怒涛の言葉攻めが続いていた、ギルベルト様はもう何も返すまいとの判断になったのだと思う。
この平民2人がメインで戦い、補助でギルベルト様の魔剣士としての戦闘とか、以前の戦いぶりを思い出しての発言だろうか。
もしかして、思い込みの魔法なんかもあるとか?
「レティシア」
「あ、はい。参ります」
どうやら上手く付近にいた貴族へなすりつける事に成功したらしい。
優雅に歩きながらも急ぎ足でその場を去ると、陛下の挨拶の列へと並んだ。
「あちらも呪いにかかっているんじゃないか……あそこまで勢いがあるのも普通ではないだろう」
「その説も一理ありますよね。それか洗脳でしょうか」
「洗脳か……そう言えば、誰かが催眠術を得意としていたような」
「ああ、催眠術という手もありますね」
元より暗示系統にかかりやすい性格はしていたかもしれないが、魔力が込められた催眠術は、自分の意思との境目がなくなってしまうのだ。
平民だったにも関わらずあそこまで自信を持ってギルベルト様へ発言ができる事にも理由がある可能性が高いという事だ。
まさか、エルフなどと同様に過去に命じられて現在でも動いている人間が存在していたりして……。
「自分の私欲で多くの人間が迷惑被ってるという未来を想像して、私たちへの呪いをかけたんでしょうか」
「……え?」
「『運命のパートナー』なんて素敵な言葉で言ってますが、結局はこんなの呪いですよ。しかも隣町で会ったエルフ達もずっと巻き込まれてたじゃないですか。先ほどの2人と同様、迷惑な話しですよね」
「なるほど、突然の内容で驚いたが、確かにそれは呪いかもしれないな」
「………あ、へ、陛下……ご無礼をお許しください」
色々と考えを巡らせていたら陛下の前までたどり着いていたらしい。
完全にギルベルト様へ話しかけていたのだが、陛下にも内容が渡ってしまったようだ。
「はっはっ、まぁ良い。この後楽しませてくれる2人だからな」
陛下の口から重くのしかかる軽口が放たれると、私の心は一瞬にして戦場へと切り替わった。
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