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「レティは……いや、何でもないよ。確かにそうだね。すでに原因達は体から離れている状態だから乗っ取られてしまうとは考えてないよ」
ギルベルト様は私が発言をした時には、キスの事なんて全く考えていなかったと分かっているのだろう。だから呆れた様に見解を述べてくれている。
昔は、(と言っても私と出会う前がほとんどだが)すごく女遊びが酷かった人が、今は割と誠実に対応してくれている。
もしかしたら勇者の影響もあって、あそこまで女にダラシない、クズな人間だったのかもしれない。
私の事を好きだと言ってくれる言葉も、今は本心だと、少しは信じても良いのだろう。
「キス、する?」
「……そうなりますよね、すみません。その意図は実はなくて」
「……でも、レティが何の影響も無く魔力が強くなる事は、寧ろ良いことじゃない?」
「え?」
「あの2人を完全に見返せるよ」
ギルベルト様がそう言って視線を下に向けると、噂の2人が仰ぐようにお酒をがぶ飲みしていた。どうやら私たちを探すことは諦めたらしい。
見ているこちらが冷や汗を流す状況に、何も言葉も出なかった。
王宮のパーティー会場で、よくあんなお酒を多量に飲めるものだ。肝が座っているのか、ただ馬鹿なのか。
恐らく後者だろうその状況に、周りの貴族達も引いている。
「見返さなくても、問題なさそうですが」
「あれは大丈夫なのか……」
つい真剣な話も中断してしまう光景に、ギルベルト様にも動揺が見えた。あの2人が何かやらかさないか(既にやらかしているが)心配なのだろう。魔物を倒した時に、もう二度と関わりたくないと思ったと聞いている。
「はぁ、せっかくキスできると思ったのに」
「そんなにしたかったんですか」
「ああ、好きな子とはいつでもしたいし、レティにはずっと我慢してきたからね」
「他の代わりの人など居なかったんですか?」
「た…確かに、前はそうしてたし、思われても仕方ないけど。レティを好きになってからは誰ともしていないよ」
私は少し驚いた。
多少なりとも、代わりの相手くらい居ると思っていたからだ。もし居たとしても記憶を消されているから辿ることは出来ないだろうけど、この方は嘘をつく時ほどスマートに答えるので言っている内容は本当だと思えた。
加えて私が誘拐されたり、呪いによって特殊な状態にされていたら、普通に考えても遊ぶこともできないのかもしれない。
「でも今キスして倒れたら面倒ですし」
「じゃあ後でしようか」
「みんな居るから嫌です」
「んーじゃあ後で無理やりしてあげよう」
「えー」
嫌ですよ、と笑いながら答えると、ギルベルト様が黙ってしまったので顔を見た。
その顔はとても幸せそうで、今まで見た中で一番穏やかな顔をしていて、何故か私の顔が熱くなったのだった。
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