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 ギルベルト様曰く、『魔力が込められた薬で初めて体に馴染むように浸透して治ると確信した』らしい。だから是非普通の魔法の場合でも効きが良いのか調べたいとのこと。


「お断りしますよ」

「どうして?パートナーは欲しくないの?」

「いや……欲しいですが、何というか、身の丈にあったパートナーがいいというか……」

「……それは、無理だろう」

「…………」


 私はもう諦めていたのだから正直要らないと言っていい、あわよくば欲しかった程度だ。だが、もう彼以外は無理なのだろうなというのは何となく分かっている。


 そして、恐らく彼も私以外には居ないという事も。


 私が拒否すれば、現在の世界的勇者は永遠に真のパートナーが居ない状態になってしまうのだろう。万が一にパートナーが出来たとしても、きっとそれは仮初の人物のはずだと。


 でも、そうだとしても、私にはその事実を受け止めきれない気がした。

 1ミリも関わりがないと思っていた貴族の世界にも恐怖を感じるのに、相手がギルベルト様というのも事件である。


 そう、最早事件だ。


 彼とあの時鉢合わせるまで、天と地がひっくり返っても有り得ないと断言していただろう事が起きているのだから。


「パートナーかもしれない……というのは誰かに伝えたのですか?」

「……伝えた」

「誰にですか」

「母上だけだ」

「…………」

「会いたいと言っていたよ」


 そりゃあ、こんな息子のパートナーかもしれない相手がひょこんと現れたのだから、(つら)位見たいと思うだろう。

 だが、そこに現れるのがチンケな小娘だったら「あら、パートナーの方はどちらにいらっしゃるの?」なんて空気として扱われてしまうかもしれない。

 もしくは掃除専用として入った下人の場所へ案内されてしまう事だろう。なんて恐ろしい場所なんだ貴族の住処というのは、私はやはりこの狭い世界で生きていきたい。


「何を考えているの?」

「私は下人ですか」

「は?」

「なんでもないです、ただの妄想ですから」

「家に来てくれるのかい」

「行きませんよ」


 なんだ、残念という表情をしながら肩を上げた彼は不意に私に近づいてきた。それはもう私のおでこに息がかかるほどちかい。

 私が後ろに下がろうとするとそこには壁があり、距離を取る事ができなかった。


「じゃあ、キスしてみよう」

「は、はぁ?!」

「前に言っただろう、パートナー同士のキスというのは心地よく、蕩けてしまうほどらしい」

「な、な、なにを言っているのか」

「ねぇ、レティシア。私はそれを試してみたいな」

「わ、私は普通のもした事ありませんから比べれないですけどね!」


 私が訳もわからず叫ぶとにこやかだった顔により深みがさす。それはもう優しそうな顔ではなく企みを含む顔だ。

 片手を私の顔の横について少しずつ顔を近づけてくる。

 なんだなんだ、最強魔剣士様はただのゲス野郎じゃないか!

 ぎゅっと目を瞑るとかおを下に向けた。その時


「ふふ……そんなに期待されると困ってしまうなぁ」


 前髪を手で持ち上げられたあと、柔らかな何かがそこに触れた。まるで紅茶にミルクを落としたかの様な感覚がおでこから身体中に広がり、とても心地よい()()にしばらく浸っていると、急に膝から力が抜けた。


「ふあ」

「おっと」

「へ?あ、れ?」


 気がつくとクスクスと笑うギルベルト様の姿がある。

 そう言えば先ほどまで彼に追い詰められていた事を思い出して逃げようとするも、体に力が入らない。

 何がどうなっているのかと困惑しているとギルベルト様が説明をしてくれた。

 どうやら今魔力を私に流し込んだらしい。それが上手く溶け合い私の中の魔力量が一定数を超えたためにお酒に酔ったような状態になったとのこと。


「おかしいね?普通の人であれば『パートナー契約』を結ばない限り魔力は体内で溶け合わないはずなんだ。『運命のパートナー以外』は」

「…………」


 私は動きを停止して口を閉じて目を瞑った。

 これは夢である。きっと、夢である。

 そう思っていたら本当に眠気が襲って来た、多分体が魔力量に追いつかず疲れてしまったのだろう。


 意識が薄れて、本当に眠りに落ちる寸前。


 レティシア、寝たふりはずるいよ。そう彼が言ってきて唇にキスをされたような気がした。




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