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私がギルベルト様と会場に降りると、その場に居た全員の視線が集まった。恐らく先程陛下の口から告げられた《運命のパートナー》を確認しに来たのだろう。
いい加減、貴族達は鬱陶しいと知ってはいたが、ここまでしつこい視線というのも瞳から魔法で出しているのかと褒めて差し上げたいほどである。
先ほどから近くにいそうなレシーはまだ言葉を発しないので、一旦置いておくとして。
ギルベルト様の中にいるアギィトスは何か言っていないのかと、先程ギルベルト様に聞いてみたのだが、曖昧に頷くのみで意味のある答えが返ってこない。
レシーが何かを知っているならば、きっとアギィトス様だって知っているに違いない。魔王と呼ばれた存在だった訳だし、呪いの1つ位知っていそうだ。
それにこの呪い如きで死にたくない。
いくら私でも、今更ギルベルト様と関わった為に、この状況になったとは考えてはいない。
きっと否応にでも運命のパートナーとして出会っていたのだろう。結局呪いも発動して最終的に意識とせず乗っ取られていたに違いないのだ。
そう言えば魔力譲渡を止めていたのは、私とギルベルト様の意識が無くなりそうだったからだった。
あの時は私はレシー、ギルベルト様は勇者リヒュタインの声が聞こえていた状況だった。けれど今はどうだろうか。
その混濁の原因であるレシーとは普通に話しが出来るくらい分かれた存在になった今なら
魔力譲渡をしても問題無いのではないか、と考えてしまった。
「ふーむ」
「かわいいレティ?どうしたの」
「………いえ、うーん。」
私が俯いて顔を赤くしているとギルベルト様は片手を私の肩に乗せ、不安そうな顔で覗き込んできた。
「何か不安?」
「え……不安は、ないですが…」
もしかしてこの方は、私がこのパーティーの作法に対し分からないと、不安がっていると思っているのではないだろうか。
だとしたら、言ってやりたい。
こんな状況でパーティーの作法に不安がっているほど心穏やかではないと。
私は何とか誤魔化すと、近くに置いてあった水をシャンパングラスに入れてもらい、気持ちを紛らわすようにゆっくりと口に含んだ。
まだ陛下が現れない会場は、ざわざわと人の声は絶えない。
不意に一気に歓声が上がったかと思うと、その2人の姿を見て私はついため息をついてしまう。
なんと、学園で《運命のパートナー》を名乗っている2人がそこに立っていたのだ。貴族のみを呼んでいたはずの会場に足を踏み入れるなど普段ならあり得ない。
「…なんであの2人が」
隣でギルベルト様も呆れた表情を取っている。
これは一波乱ありそうである。
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