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レティシーは昔を思い出していた。
【魂こそ生物の本元である、生物の活力は全て魂によるもので、魂がこの世界で最も動力となる事は覆す事はできぬ】
というような内容が書かれた本を読んだのは、父の部屋に忍び込んだ時だった。厳重に保管されているように見えた金庫には鍵がかかっておらず、当たり前のように開いた。
恐らく、うっかりしていた父が閉め忘れたと思われる。
そこにはレティシーの想像を超える残虐な内容がつらつらと綴られ、自分のお爺様がこんな事をしていたとは考えたくないと目を瞑った事を思い出す。
だが、現に本は目の前に存在し、親しみを覚えてしまう懐かしい字でそれは書き綴られていた。死ぬ直前まで穏やかな笑みをたたえていた祖父は、何故この本を完成させたのか、そして出来れば実行に移していなかったと思いたかった。
しかし、ここの王国が誕生したのはレティシーの祖父の時代である。
底が抜けていくような脱力感が身体中を覆うと、レティシーは気を失った。
その日は隣国に嫁ぐと決まった日であったこともあり、レティシーの父は申し訳なさそうな顔を常にしていたはずだ。
目を開けたレティシーが見たのは無表情の父の顔である。
いけないものを見てしまったという事はすぐに理解ができた。
それから、レティシーは病気になった事になり、城の一角に幽閉される事となった。
ある日、定期的に来る侍女から噂話を聞いた。隣国では有名な剣士を勇者に仕立て上げ、魔王を倒しに行くらしい。
魔王という存在はいつから生まれたのかは知られていない、ただレティシーの知識としては、魔王と言う名に恥じない優秀な人物であるとされていた。
増えてしまった魔族の統制が取れているのは、その優秀な知識と能力があり、我々はその魔王によって守られているとも認識していたのだ。
一体何故魔王が悪者として仕立て上げられてしまったのか理解ができないレティシーであるが、幽閉され、家族と会う事も出来ず、結婚の話も消え去った今には全くどうでも良い出来事に間違いがない。
そう考えて、レティシーはその話は頭の端に追いやったのだ。
思い出さねばならなくなったのは、それかれ数ヶ月後、目を開けてアギィトスが封印されたリヒュタインと対面した時の事だ。
レティシーはその日、久々に父と再会する日であった。
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