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レティシーと簡単に会話ができればと、アギィトスが考えていると、正装したギルベルトが鏡の前で不安そうな顔をしている。
先ほどレティシア達とも顔を合わせ、会話をしてからというもの、ギルベルトはそわそわと落ち着きが無い。
内面までは理解できないが、レティシアの反応が芳しく無かった事が原因なのだろう。
基本的にレティシアは淡白な性格をしていると思うが、かなり頭は良いのだろう。
この『運命のパートナー』の力が今後どのようの影響を与えるのかを考えながら行動をしているに違いない。
もし、解決したとして、このギルベルトという男が自分の事を好きなままでいるはずもない、などと考えていそうである。
以前よりリヒュタインを通してアギィトスへ時たま流れてくる風景を見るに、リヒュタインまで行かずとも、かなり最低な行動をしてきた奴だ。
行為だけして記憶を消して捨ていたなんて……。リヒュタインにも負けないほどクズな男である可能性もある。
この世界に『パートナー』という制度が出来て数千年が経ち、人間の方がその制度の適正に馴染むようになってから、魔力と其方の相性が合致し始めた。
逆に言えば、魔力の相性が悪い相手しか居なければその行為自体も普通であり、より高みを目指して数をこなすようになってしまうのかもしれない。
そこに関してアギィトスの理解の範疇を超えている為に可能性として、であるが。
だから、リヒュタインより原因はありそうだと、理由をつけてギルベルトの評価をなるべくあげるアギィトスである。
今までとは違い、話もできる為に情が出ているのかもなと、思ってギルベルトへ話しかけた。
『ギルベルト、『運命のパートナー』の件が解決した場合、自分とレティシアのパートナーとしての力が解消されるとは思わないのか』
アギィトスは言った後にとても後悔をした。
振り返った時のギルベルトの顔が、ナイフで心臓を抉られたように苦しげに歪んでいたからだ。
ギルベルトは気がついたのだろう、先ほどレティシアに告げた言葉に行き違いがあったのだと。
「レティシアは……俺の気持ちが無くなると思っているのか」
『……今までの行いもあるからな』
だが、自分でも予想ができずにいて悔しいのかもしれない。
恐らく自分達が巻き込まれている原因は『呪い』であり、呪いは解決する方法が必ず存在すると言われている。
だからこそ、呪いによって歪められた今の感情を取り除かれた時、果たしてレティシアを好きな気持ちが残るのか、更に不安にさせてしまった。
「レティを好きでいたい、初めてなんだ……こんな人を愛おしいと思うのは。偽りであっても、この暖かい気持ちを知ったままでいたいよ」
『……』
呪いで感情が消えるならば、ギルベルトは呪いを解かない選択をする場合もあるかもしれない。
だが、ここ数千年の時の中でここまで真実に迫り、解放されそうな事など今までの一度もなかった。
だからこそ、呪いを解いて解放しなければならない。
例え、ギルベルトを騙す事になったとしても、この希望を捨て置く訳にはいかない。
レティシーも、自分も、早く解放されて自由にさせて貰う。そう、アギィトスは心に誓った。
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