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私の身長はギルベルト様の顔一つ分位低い為、彼にずいと近寄り下から見上げることができる。
そして、少し狼狽えている彼に小首を傾げて「どうしたんですか」と聞いた。
特に理由はないが、なんとなくそうしたらギルベルト様が困ると思ったのだ。
「……れ、レティは、俺がレティを好きだと知っているんだろう」
「……まぁ、言葉としては聞いておりますけど」
「まだ、運命のパートナーだからと言うつもりかな?」
「まだというよりも継続してそうなのでは?」
はぁ、とギルベルト様は息をつくと、私の肩を優しく掴みゆっくりと距離を取らされた。先ほどよりも頬は赤く染まり、眉にはシワを寄せている。
まるで私が悪いとでも言うような視線に私は困惑した。
全く間違った事など言っていないのにどうしてそんな視線を浴びなければならないのか。だってまだ問題は解決していないし私は色々と納得していない。
ギルベルト様が言う好きだと言う気持ちは【子供の時に初めて見た子犬が可愛くて仕方がなく、この気持ちは『好き』ではないかと思った】というものであるに違いないのだ。
そうでないと困る。どうして良いのか分からない。
何故か婚約なんぞしているが、もし万が一、この『運命のパートナー』の件を解決した途端に魔法の相性の良さも無くなったとしよう。私が婚約者になる為の仮貴族になれた『ギルベルト様の運命のパートナーだから』という名目も無くなってしまう。
そうなれば流石にギルベルト様の母アナリア様も私との婚約を許すまい。
そして、ギルベルト様も私の事など好きではなくなり、ただ私は捨てられるという所まで想像がつく。
「信じてよレティ」
「確定できない事を信じられませんよ」
問題がもし解決して、何事もなく済んだとしても、浮気性だったギルベルト様がまた浮気しないとも限らない。
そして、貴族社会には愛人という枠組みまであり、夫人は数人位は許容しなければいけないらしい。
私が万が一にでもギルベルト様を好きになり、結婚するとなるならば、浮気など絶対にしてほしくない。
今は、運命のパートナーという事件性に、平民育ちという珍しさから私を気に入っているだけに決まっているのだ。
だから、そんな愛おしそうな目で見ないでほしい。
本当に好きかもしれないなんて思わせないで。
「レティ……この問題が解決したら、本当の意味でも結婚させて」
「出来ますかね」
「きっと解決できる」
「……そうですね」
私は不思議と涙が溢れそうになる気持ちを押し込み、ぎこちない笑顔をギルベルト様に向けた。
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