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その笑顔は怒りを隠すためのものに見えた。
けれど私にはその怒りを抱かせた覚えはない、何故なら彼女の事を見たことが無いからだ。
このまま何もしてこないことを密かに祈りながら、私はエルフを睨みつけた。
すると、エルフははぁとため息をついた。
「……逃げるなんて卑怯な手を」
「一体あなたは誰ですか」
「……レティシー姫を出してくださいませんか」
レシーの名前が出てきたという事は、やはりレシーが逃げていた理由はこのエルフなのだろう。
そして、一時的ではあったが、レシーの姿を見ることが出来た原因も。
だが話が通じる相手ではなさそうだった。
レシーは気を失ったのか返事が無いので原因をすぐ把握する事はできないが、このエルフをひとまず止めなければまずいと直感が言っている。
「……レティシーから返事が無いので出す要望には答えられません」
「返事がないなんておかしい事、レティシー姫は霊体なのですから気を失ったりもするはずありませんよ」
「…………」
恐らく全員が思っただろう。
レティシーが霊体だと、何故知っているのか。
私もそうだが、ギルベルト様の方も、そしてきっとアギィトス様も、その事実を知らなかった。
自らの魂が別の人格として転生していると考えていたようだったのだから。
「……しかし、今回は引いた方が身のためな気がしますので失礼いたします」
「あ、ちょっと待…」
何か考える仕草をしたエルフは、そう呟くと瞬きをした瞬間に姿を消した。
まるで初めからそこに居なかったかのようだ。全く魔力を感じなかった事についても驚きと、恐怖を感じる。
「ぎ、ギルベルト様今の」
「ああ……なんだったんだろうな。アギィトスも知らないらしい。だが…」
「はい……私たちが追わされている『運命のパートナー』の謎の重要人物な気がします」
「……レティシー姫は?」
「返事がありませんが、多分私の側にいます」
「そうか、この場から動いて問題ないのか……」
「どうなんでしょうか……」
多分レシーから話を聞くのが最優先だと思った私達は、ここから離れてまたレシーとはぐれる恐れがあった為に、ちらほら侍女達が見え始めてからも数十分、廊下に滞在することとなった。
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