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ギルベルト様が飲んだ薬が有名になっているらしい。
まさかね、と思っていたら彼がやってきた。
「レティシアの薬を一粒のんだら左腕全体にあった火傷が治ったんだ」
「……それで」
「そうしたらレティシアの薬が有名になってしまった」
まさかと思っていた事が現実となって私に向き合ってきた。
痛くなる頭をおさえながら一応その怪我の原因を聞き出してみる。
「なんで左腕火傷したんですか?」
「薬を試してみたくて火傷をしに行った」
「ばっ、あ、頭がおかしくていらっしゃるのでは」
「丁寧に言えば良いというものではないよ、レティシア」
正直左腕全部を焼きに行くとか正気の沙汰ではない。
ただ、まぁ、彼が突入してきたのは私の実験中であり、私の左腕は完全に色がおかしく、動かなくなっているので私も割と正気の沙汰ではないのかもしれない。
「レティシアの左腕は?」
「今実験中なんです」
「でもその色……もしかしてアンサタの……」
「ええ、割といい感じに出来たのでどんどん凄い毒にしていったらアンサタまできました」
「レティシアも大概では?」
「私は私の腕を信じておりますから」
アンサタの草は世界的に有名な毒であり、これを飲ませれば多くの人間が痙攣して倒れる事で知られている。
多分、めちゃくちゃな大男とか、その前にご飯をたらふく食べていて何となく緩和されたとか、私みたいに毒に慣れていない限り倒れるはずだ。
「……だ、大丈夫なのかい?」
「ええ、今から薬を塗りますので」
そう言ってかなりの確率で成功している解毒ペーストを傷口に塗りつける。すると、先ほどまで真紫だった腕が徐々に色を取り戻し肌色へともどった。僅かに痺れは取れないが、飲み薬を飲めば回復するだろう。
「うん、成功」
「まだ痺れているのでは?」
「ええ、ですが……」
私が首を縦に振った瞬間、彼は私の腕に手をかざして『ヒール』と言った。みるみる痺れはなくなり、薬を飲む必要がなくなる。
「魔法だ」
「こういう実験をする時は私を呼ぶように」
「ええー……というかヒールできるなら私の薬要らなかったのでは?」
そう言うと彼は首を横に振ってため息をついた。
「戦場ではヒールを使うくらいなら火力に回すよ。人が死にそうな時位しか使用しない」
「なるほど、それほど切羽詰ってるってことですね」
「まぁ、そうだ」
「では私は今貴重なヒールを使用していただいたと……」
「…………戦場ではないから貴重ではないよ」
ちっと心の中で舌打ちをした。
そのまま頷かれたら貴重だからこの間の金貨の分はこれで、と言おうと思っていたのに。
「そうしたら別途金貨を渡すまでだ」
「へ?」
心の声を読まれたと思って彼を見ると普通に呆れた顔をしてこちらを見ている。まるで当たり前かのような反応に少しだけテンションが下がった。
「違ったかな?」
「違いませんね」
とりあえず、彼は薬について「たまたま旅先で手に入れた」と話しているらしい。私の事を隠したいのかと思っていたら、公にしたら私が逃げそうだからとの事だ。
悔しいが否めない。と思った。