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✳︎私の名前が「りょう たまき」から「りょう。」に変わりました!
嫌な予感がすると言ったのはアギィトスだったらしい。
ギルベルト様が慌てたように外を歩こうと言ってきた事に、急すぎて私は驚いた。
少し前に戻ってきたララが淹れてくれた紅茶からもまだ湯気が立っているというのに、一体何事だろう。疑問に思ってギルベルト様の顔を伺うと、良くなったと思った顔色が再び真っ青になっている。
どうしたのですかとの声をかける前に、ギルベルト様は私の腕を掴んで廊下へ駆け出した。
廊下に点々と待機する騎士も、何かを運ぶ侍女達も、私たちが慌てて走る異様な姿に目を向けてきた。
当たり前だ、有名な魔剣士とそのパートナーが来ている事で少しざわめいていたのだが、その本人達が通常誰も走る事のない廊下をバタバタと走り去っていくのだから。
「ちょ、まって……」
私はもう尽きてしまいそうな力を振り絞って声を出した。
手を引かれているのでそのまま走らねばならないのだ、
魔剣士と平民の体力の差を甘くみてもらっては困る。
「よっ!!」
「ったぁ!?」
私が必死で声をかけたことが功を奏したかギルベルト様は一度少し足を止めると、私を思い切り持ち上げた。
私は、お姫様抱っこの状態にされて固まり、再び彼は走り出す。
永遠にでも続きそうな廊下を走り、客間が置かれていた場所からは真逆の棟までたどり着いたとき、微かに声が聞こえた。
「レシー?」
「声が聞こえたのか?」
「はい。あっちから…」
今いる棟は主に王宮で働く人たちが生活を行うスペースであり、裏方の仕事をまとめている場所になっている。
棟とは言っても客間などがあった棟の1/5ほどの大きさしかない。部屋数が同じくらいにも関わらずだ。
ちょうど渡り廊下を渡り切った左手方向から声が聞こえてきていた。
「や、やだ!アギィ!!アギィー!」
「レシー??レシーの声だ!!ギル……」
ギルベルト様も声がする方向を見つめていた。
もしかして、ギルベルト様にも声が聞こえているのではないかと、そんな思考もよぎったが、レシーの声は緊迫している。
ギルベルト様もそれを察知したのか再び走り始め、そして。
「レティシア!!」
「レシー!?」
私はレシーである可能性が高いその子と出会う事ができたのである。
声からしてレシーである事は間違いそれは、半分ほど透けており正確には見る事は叶わなかった。
しかも私が手を伸ばした瞬間に再び目で認識は出来なくなる。だが、私には確かにレシーが戻ってきたという事が分かった。
ふと気がつけば薄暗い廊下から褐色の肌と白い髪を持ったエルフが現れた。
まるで貴族の様に優雅に歩くその姿からは危機感を感じない。だが、レシーは彼女が現れた方角から必死に走ってきていたのだ。
原因が彼女にあると考えるのが普通だろう。
「あら、うふふ……」
妖艶に笑うその姿は、初めて見るにも関わらずあまりに魅力的に見える。女の私でさえそうなのだから男のギルベルト様なら酔ってしまうのではと見上げれば、青かった顔に僅かな苛立ちをのせてエルフを睨み付けていた。
いつもなら人通りの多いこの場所がまるで示し合わせたように人の姿は見えない。
まるで、誰かが仕組んだようだと私は思った。
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