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「そういえば、先程のレティシー姫の話の続きは?」
「実はさっきからレシーの声が聞こえないんですよね」
私はレシーと空中に呼びかけてみるも、全く返事は返って来なかった。思考に対しても応えがあったのだから、今ここに居ないと考える方が妥当だと思われる。
「ギルベルト様のその本から、何か話し聞けないのですか?」
「アギィトス、聞こえるか?……ああ、そうらしい」
私には本から声は聞こえて来なかったので、すべてギルベルト様に通訳をしてもらわねばならなかった。
自分では先程行っていたけれど、他から見るととても大変な作業に見える。
通訳を通すも、どうやら話が分かる人物という事は伺う事はできた。
「……アギィトスさんはレシーのこと好きでした?」
「好きだったそうだよ。勇者リヒュタインが嫌がるために言葉ではあまり伝えられなかったらしいけど」
ギルベルト様の言葉で淡々と通訳が行われる為に本人がどの感情で語っているのか受け取りづらくはあったが、レシーの事はちゃんと好きだったようで安心する。
魔王はまともな人物だったようだ、物語などに存在している魔王は全くの別物であるのに、教科書もまるで誘導のように感じる。
「ところで、勇者リヒュタインが死んだ時に一緒に死んでしまったのですか?」
「………勇者は呪い殺されたらしい。もちろん自分は勇者の中に封印されていると思っていたが………よく分からないまま生まれ変わったようだ」
「生まれ変わり….レシーも同じようなこと言ってたな」
普通、生まれ変わったとしたら今のように会話する事なんて
出来るのだろうか。最早、なにを普通とするかは全く想像もしていないが、魂に埋め込まれていて何かの歪みで外れて分裂した可能性はないだろうか….…。
「なぜアギィトスさんは本に……いいえ、分からないのでしたね」
「………え、そうなのか」
「どうしましたか?」
「どうやら変わるらしい」
「変わる?」
「ああ、アギィトスの意識がはっきりしてくると、本と本体に魂が分かれてしまい、…………本から意識を操られ、やがて再び意識は乗っ取られてしまった?つまり、どういうことだ」
私は本と真剣に話すギルベルト様をただ見つめて待った。
ギルベルト様は理解するまで話し込む事にしたようで、私の方を振り返ることもしない。
私は声が何も聞こえなくなってしまったレシーが心配になり、姿は見えないはずなのに、きょろきょろと辺りを見渡した。
せっかくアギィトス様が近にいるのに、再会を果たせないなんてかわいそうだなぁと、代わりにため息をついておいた。
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